「…するならウサギ化だと思ってた」
「それが感想ですか」
バーナビーは今、オフィスでデスクワークをしている。
普段二人が仕事をしているこの部屋に虎徹が入るなり、バーナビーが「どう思います?」と尋ねて来たのだ。
何がだ、とは思わなかった。何について聞いているのかは明らかだった。
いつもならバーナビーはこの時間、トレーニングをしているのだが、今日はしていない。
何故なら今彼はとても人前に出られる姿をしていないからだ。
「…なんでそうなっちゃったの?」
「知りません。気が付いたらこうなってましたから」
バーナビーの頭には今、猫の耳が付いている。尻には長い尻尾も付いていた。
所謂"猫化"という状態だ。
口では至って冷静だが、顔は恥ずかしそうな表情をしている。
虎徹がゆっくりとバーナビーに近付いて彼の頭を撫でると、その獣特有の耳がピクリと動いた。
「バニーちゃん可愛い」
「僕はバニーじゃありません、バーナビーです!」
「……」
いつも可愛いげ無く返される、そのお決まりのやり取り。
そろそろバーナビーも呆れてくる頃だろうかと思っていたのだが、そんな事は無かったようだ。
虎徹は見てしまった。
「バニー」と呼ばれたその後、長い尻尾がパタパタと横に振られるのを。
「バニーちゃん…」
「…なんです?」
やはり、顔も口調も全く嬉しそうには見えない。
それでも、動きの制御出来ないその部分はパタパタと振られている。
喜んでいる。
こんな、毎日毎日飽きることなく交わされる、決まりきったやり取りの繰り返しを。
――これ、言ったら怒るんだろうなぁ。
虎徹は、そんな彼の心情に気が付かなかったフリをして、バーナビーの頭を撫で続けた。
(「なんでそうなっちゃったの」って聞かれたけど、答えられませんよ。)
(貴方に近付きたいと思ったら猫科の動物になっていた、なんて。)