「オジサン、何やってるんです?」
退屈そうにソファーに座るバーナビーに声を掛けられ、虎徹はパソコンから目を離さずに応える。
「仕事だよ仕事。家に持ち帰ってやるタイプなの」
「僕が家にお邪魔してても仕事してるんですか?」
「あのなぁ…」
棘のある声に棘のある言い方。バーナビーは見るからに不満げだった。
虎徹はポリポリと頭を掻きながら溜息をつく。が、キーボードを叩く指は止まらない。
「何の連絡も無しにいきなり来たのはどっちだよ?」
「…それは」
「だったらちょっと待っててくれよ…その辺の雑誌でも見ててよ」
明らかに不満げなバーナビーは、大人しくソファーに座りながら雑誌を手にした。
が、読むわけでは無くなんとなく手にとったまま、じっと仕事をする虎徹を見詰めている。
寂しいんだろうな、と痛感しつつも、仕事は仕事だ。優先しなければなるまい。バーナビーもそれはわかっているはずだ。
と、その時だった。
「あっ」
音もなく近付いて来たバーナビーの指が、虎徹のパソコンのデスクトップの電源を落とした。
デスクトップだけなので、本体の電源は落ちる事は無かったが。
「おいおい何すんだよー、仕事出来ねぇだろー?」
言いながらデスクトップの電源を付けようとするが、電源ボタンはバーナビーの手の平に覆われていた。
「付けてほしいですか?」
「付けろよ」
「それが人にものを頼む時の態度です?」
自分でこんな事をしておいてなんていう言い方だ、と思いはしたが、このままでは仕事が出来ない。
理不尽だな、と思いつつも、頭を下げた。
「付けて下さいお願いします」
口の端を釣り上げたバーナビーは、なんだか機嫌が少し戻ってきたように見えた。
「じゃあ一つだけ条件があります」
「条件…」
どういうことなの…、と突っ込みたくなったが、ここで突っ込んだらまた機嫌が悪くなってしまうと考えた虎徹は、条件をきく事にした。
「で、条件ってなんだよ?」
「……、…キス、して下さい…」
俺はこの瞬間、仕事の事を忘れてしまった。