バタバタとけたたましい音を立てて、沢山の医者や看護士が病院の中を走る。
3つのストレッチャーに乗せられたそれぞれの身体には力が入っておらず、床の歪みにつっかえた衝撃でストレッチャーから転がり垂れ下がった腕を、何本もの血がつたう。

急いで手術が行われるも、心電図は「0」という数字とともに継続的な電子音を鳴らし、そのたびに医者が応急処置をして心電図から電子音をなくすが、それでもまた数字は「0」になる、その繰り返しだ。
3人とも、生存はほとんど絶望的だった。





家族会議





ピピピピ、と音をたてて目覚まし時計が鳴る。虎徹はその音で目を開け、時計を止めた。
カーテンからは光がもれていて、朝だということがわかる。

嫌な夢を見た。死ぬ夢だ。
ストレッチャーに乗せられて、俺とバーナビー、それに楓までもが死ぬ夢。

虎徹が布団の上で上半身を起こすと、その横でゆっくりとバーナビーも起き上がった。
バーナビーはいつも低血圧のために寝起きは悪いのだが、その日はすぐに頭が覚醒したらしい。

おはよう、と声をかけようとするも、バーナビーの顔色は白いというよりももはや青く、虎徹は言葉を出せなかった。

「…虎徹さん」

バーナビーが、口を開く。

「僕達、」
「…はは、なんだよ」

そう言ったところで、虎徹の布団の上にあった目覚まし時計がまた鳴る。虎徹は目覚し機能を切ると、布団から立ち上がって足早に居間に向かった。
これ以上バーナビーと話し続けられる気がしなかったのだ。




手早く朝食の支度をし、バーナビーと楓が居間に来るのを待つ。
ここはオリエンタルタウンにある虎徹の実家で、ヒーローを引退したバーナビーはしばらく前からここに住んでいる。

楓は学校があるし、そろそろ起きてこないと遅刻してしまうのだが。
虎徹はそんなことを考えながら、何気なくテレビの電源を付けた。しかし、そこに映っているのは砂嵐だった。

「…あれ?」

どのチャンネルに回しても砂嵐。テレビの故障だろうか。
虎徹がテレビを消してリモコンを机に置き、楓ののことを起こしに行くため居間を後にしようとした、そのとき。楓が居間に入ってきた。

「おお、おはよう楓!偉いなー自分で起きてきて!」
「…だって、」

そのタイミングで、シャワーを浴びてきたらしいバーナビーが、軽装で肩にタオルをかけて居間に入ってくる。

「あ、おはよう楓ちゃん」
「…ねえ!」
「そういえば楓ちゃん、まだ牛乳飲めないんですって?給食でも残してるんですか?」

虎徹にも、バーナビーがあからさまに楓の声を遮っているのがわかった。理由は、あれしかない。脳裏に昨夜の夢が浮かび上がる。
冷蔵庫を開けてバーナビーが牛乳を取り出したところで、楓がもう一度声を上げる。

「ねえってば…」
「あっそうだバニー、テレビ壊れちまったみたいなんだよ」
「え?去年買ったばかりじゃないですか」

虎徹とバーナビーがテレビの方に歩み寄ると、楓が叫ぶような声を上げた。

「ねえ!!」

その声に、一瞬部屋に沈黙が走る。虎徹とバーナビーがゆっくり振り返ると、楓は静かに聞いた。

「…私たち、助かったの?…なんでどこも怪我してないの?」

楓の声が震えだす。
泣きそうになりながらも、質問を続けた。

「いつの間に朝になったの?なんでみんなうちにいるの?いつ、どうやって帰ってきたの?」

その質問に、バーナビーまで泣きそうになりながら、震える声で返した。

「…夢を見たんです、僕達3人が、ドライブに行って、事故に遭う夢」
「俺も見た、3人、死ぬ夢…」

頭の中で、ドライブの様子が蘇る。
虎徹の運転する車がトンネルをぬけたそのとき、突っ込んでくる大型トラック。
ストレッチャーに乗せられた自分の身体、痛み、熱。

「夢なんかじゃない!!」

楓が叫んだ。

そう、夢なんかじゃない。
虎徹も頭のどこかでわかっていた。ただ、認めるにはあまりに辛すぎることだったのだ。

そして、夢から醒める直前に聞こえた、誰の声かもわからない声のことも思い出す。


3人は死ぬ運命だった。
ただし、3人のうち誰か1人が犠牲になればあとの2人は救われる。あとの2人は、ここで得たみんなの気持ちを生涯忘れることはない。
時間制限は、3日後の午前0時。
それまでに3人のうちの誰かが誰かを殺さなければならない。
自殺は出来ない。
ここは、生と死の狭間の町。
3日間の家族会議で、誰が犠牲になるか決めること。


あまりにも無慈悲なその声は、3人とも聞いていた。






学校には、誰もいなかった。学校だけではなく学校に行く途中にも誰もいない。電車も走っていない。見慣れた町なのに、異様な光景だ。
他にも、家の壁に貼ってあるカレンダーは、今日・明日・明後日の3日間分のマスしかない。あとは消えている。
それはあの"声"の言っていることが本当だということをしめしていた。

「本当に、"家族会議"を開けっていうんですか…」

その日の午前はみんな呆けていて、やっと「考える」ということを始めた頃にはもう辺りは真っ暗だった。
虎徹とバーナビーは、机を挟んで座って表情に深刻な色を浮かべていた。

「…"3人のうち、誰か1人が死ねば、あとの2人は生き残れる"…か…」

虎徹がそう言うと、バーナビーは肩を震わせながら言った。

「…僕があなたを殺すか、あなたが僕を殺すか、…しか無いでしょう。楓ちゃんに手をかけるなんて…」

それは、虎徹も考えていたことだった。

「…なあ、本当に誰かが死ねばあとは生き残れるなら、俺…!」
「なに言ってるんですか、そんなこというなら僕だって…」
「だって、私情なしで話したって、お前の方が将来だってあるんだし、」
「虎徹さん!」

どっちが自分を殺すか、それの擦り付け合いだった。

「父親がいなくなって良いんですか」
「…楓に父親が必要なら、お前がなってやってくれないか」
「あなたのかわりなんて誰も出来ません、それに死んでも僕には誰もいませんから」
「それじゃ駄目なんだよ…!」
「虎徹さん…!」
「やめてよそんな話…っ!」

楓が、泣いていた。
その叫んだあとは大声をあげて泣きじゃくりだした楓を、虎徹は抱き締めて宥めた。

いつまでも泣き止まない楓に、この日の家族会議は終了した。



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