食べる?と聞くと、彼は柔らかく微笑んだ。

「ありがとうございます。ちょうど甘いものが欲しくて」

 俺は先ほど売店で買ったキャラメルをバーナビーに手渡す。勝手に食べたら医者に怒られるかも、と言うと、彼はちょっと手を止めてから構わずそれを口に入れた。

「言わなければバレたりしないでしょう」
「わりと不真面目なんだな」
「……」

 病室のベッドに上半身を起こした状態のバーナビーは、キャラメルを噛まずに舐めている。口に入れたものは何でもすぐ噛んでしまう俺とは大違いだ。

 俺は、この前一度会っただけの相棒の元に来ていた。色々と話さないといけないことがある。バーナビーが俺とコンビだったことを知っているのかわからなかったが、病室に快く入れてくれるあたり知っているのだろう。あれから他のヒーロー達も度々お見舞いに来た。どこかで、俺とバーナビーがコンビだったのだと伝えられていてもおかしくはない。

「なぁ、……聞いた?」
「……コンビだったんですよね、僕達」

 それだけで何の話なのかわかったらしい。俺は少し感心した。
 俺は購入したばかりのマンスリーヒーローを取り出し、例のインタビューのページを開けてバーナビーに差し出した。彼はそのページを黙ったまま読み始めた。
 気のせいかもしれないが、もう一つ欲しそうな目をした気がしたので、俺は箱からもう一つキャラメルを取り出した。するとバーナビーは小さく笑ってそれを受け取った。

「信じられないな……」

 キャラメルを口に入れたバーナビーが唐突に呟いた。マンスリーヒーローを読んだ感想なのだろう。何故わかるかって、さっき俺も読んだときに信じられないと思ったからだ。

「コンビを組んでいたなんて、記憶に全く無いのに」
「あぁ、そうだよな」
「でもここに載ってるのは確かに僕なんですよ。なんだか面白いです」

 ありがとうございました、と言って、バーナビーは俺に雑誌を寄越してきた。

「思い出したいと思います?」
「……なんで?」
「お互い記憶が無いのなら、思い出さなくても誰も辛い思いをしませんから」

 俺は無意識だったが思い出す気でいたから、この言葉には意表を突かれた。確かに片方の記憶がそのままだったら、その片方が辛い思いをしただろうが、実際は違う。両方記憶が無いのだ。
 だったら、今何も問題ないのなら、このままでいた方が良いのかもしれない。もしかしたら思い出したくなかったものもあるかもしれない。もしも思い出したら、それも一緒に思い出してしまうということだ。

「ん……」

 でも、記憶の無くなる前の俺が、「これから思い出が全部なくなる」と言われて、どう思うのかを想像してみる。すると、今の俺はどんな思い出があったのかわからないというのに、思い出が消えるのは嫌だと言う自分が容易く想像出来るのだ。

「それでも、思い出さないのは寂しい気がする」
「そう、ですか」

 すると、バーナビーが安心したような顔をした。

「……良かった、思い出したいのが僕だけじゃなくて」
「なんだ、思い出したかったんなら先にそう言ってくれれば良かったのによ」
「いえ……それだと押しつけるみたいかなって、気になってしまって……すみません」

 ベッドの上から移動出来ないままの大人しいこの青年は、どうやら派手めな容姿と打って変わって気遣いの出来る子らしい。てっきりいかにも「最近の若者」といった風の性格をしていると思っていたので、なんだか拍子抜けしてしまった。

「読んでいてわかった情報をまとめましょう」
「え、あ、そうだな」
「まず、結成したのは今から2年と少し前のことですね」

 ベッドの横の小棚から、紙とボールペンを取り出し、バーナビーが何やら書き出した。俺にはそれを追うのが精一杯だった。

「早速ですけどまずは推測です。インタビューの中盤の方を見ると、結成当初は仲が悪かったように思えます」
「え?仲が良いけど最初からこうだったか、って質問に、結成当初からこんな感じだった、って答えてなかったっけ」
「そうですね、そこです。僕達はそう答えてるんですけど、後ろに少し写ってる他のヒーロー達を見て下さい、明らかに笑ってますよね」

 見てみると、俺達のうしろでこちらを見ている他のヒーローのうち、表情が伺える奴らの表情は全部笑っていた。よく言うわよ、とでも聞こえてきそうな表情だった。

「それだけなんですけどね、だからこれは推測です。それから僕達、マーベリックを倒したあと、一回解散したようですよ」

 バーナビーが時折書く手を止めて、手首を少し回すのがわかった。ほとんど動いていなかった中で突然文字を書き始めたのだから、手首や指が痛くなって当然だと思う。
 俺は代わりに書こうかと提案したが、彼は遠慮してるのか首を振った。

「解散?」
「ええ、見出しにも雑誌の表紙にも"再結成"とありました。これは一回解散した証拠でしょう?それからこの活動年表。マーベリックを倒してからこの"クリスマスに感動の再結成"と書かれているまで間があります」

 確かめてみると、確かにそうだった。あの短時間でこんなものまで見ていたのかと思うと、観察力が恐ろしい。


[ 6/6 ]

[*prev] [next#]

[目次]
[しおりを挟む]
12


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -