その後すぐに医者が来て、彼の検査が始まってしまいろくに話が出来なかった。医者には「歩くなと言ったのに」と説教されてしまったがそれも覚悟はしていたので正直どうでもいい。それよりも意識が向くものがある。
 自分の病室に戻り、先ほどのバーナビーの反応を脳裏に浮かべた。「どちら様ですか」と問いかけるあの翡翠の目は俺を騙していなかった。
 本当は、彼と自分は、初対面なんじゃないだろうか。そうとしか思えないくらいに事態が飲み込めない。これで、俺とバーナビーの間を知っているのは本人達2人を除いて第三者の人間だけになる。当事者の知らない人間関係なんておかしな話だ。


 それから二日経って、「病院内に限り」という条件付きだがようやく自由に歩き回っても良いと許可がおりた。かと言ってすぐにバーナビーの病室に行く気もせず、俺はその足でロビーにある売店へ行った。
 買うのは雑誌、マンスリーヒーローだ。それとなんとなく甘いものが欲しくて、勝手に食べたら医者に怒られるかもしれないなと思いつつもキャラメルを一箱買った。
 マンスリーヒーロー。これを見ればバーナビーとどんなコンビだったのかがわかるかもしれないと期待していたのだ。しかしそれは、良い方に期待が外れた。期待していたよりもずっと大量の情報が得られそうだった。忘れていたが、今月はしばらく前に受けたインタビュー記事が載る号だった。もちろんインタビューを受けたのは覚えているが、そこにバーナビーがいた記憶はない。一人で受けた記憶もないのだが、コンビで受けた記憶もない。それでわかるのは、無くなった記憶は間違った記憶で埋められることはなく、その部分がぽっかりと空いてしまうということだ。

 早速「タイガー&バーナビー特集」のインタビューページをめくる。そこには確かに先日会ったあの顔が載っている。やはりあの彼がバーナビーであり俺の相棒だというのは確かなことらしい。
 なんで顔を出しているんだろう。ヒーロー名が本名? 色々と疑問があったが、それはこの際置いておく。今必要なのは疑問ではなく情報だ。
 でかでかと書かれた「感動の再結成!」などという見出しの下に、それはあった。

Q.ヒーローに復帰する決め手となったことはあるんですか?
――そうですね、僕はタイガーさんが復帰したことが決定打です。
Q.バーナビーさんにとってワイルドタイガーとはどんな存在ですか?
――隣にいるのが当たり前の人です。今まで僕にそういう人はいませんでしたから、そう思えるのは初めてなんです。いなくなったらっていうのが考えられません(笑)。

 これが本心なのか建前なのかは判断がつかない。あの顔は嘘をつくような顔だろうかとは考えたが、外見が決定打になるはずもない。マンスリーヒーローの薄いページをぱらぱらとめくっていくと、ワイルドタイガーのインタビューページに来た。

Q.ワイルドタイガーさんにとってバーナビーさんはどんな存在ですか?
――大切な相棒です。

 これには瞠目した。正直、今自分は相棒なんて必要なのだろうかと考えていたのだが、「大切」だと言っている。この自分が。
 ずっとワイルドタイガーとして一人でヒーローをやってきたのに、いきなりコンビを組んでうまくやっていたらしいというのが信じられなかった。
 それ以外のページには最近の活躍などが写真付きで載っている。活動年表なんてものもあり、記憶がない自分のためにまとめてくれたんじゃないかと思えるくらいに何もかもが綺麗にまとめられていた。バーナビーはなんと初登場で1位――キングオブヒーローの座を勝ち取っている。しかも俺は最下位争いに皆勤賞だったというのに、コンビを組んだシーズンから4位という好成績だ。
 写真は誰が撮ってるのか気になるくらいにどれもよく撮れていて、犯人を捕まえた瞬間であったり、人を救助した瞬間であったりと、どれも自分達の華々しい瞬間で、嘘みたいにさえ感じる。

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