『……に向かって逃走していたところ、偶然居合わせたヒーローの………………犯人は銃を所持していたようで、現在は……』

何処から聞こえてくる音なのかはわからない。ところどころ雑音に紛れて上手く文章として聞き取ることの出来ないラジオのような音は、今まさに自分達が関わっている事件のことを話していた。
今起こっている事件を、ラジオを通して聞くことが出来る。メディアの発達とは凄まじいものだ。

「……バニー」
「どうしました?痛いですか?」

大通りから逸れた人気のない道――言って良いのかはわからないが、ホームレス達が寝所を構えてそうな、湿気の多い暗く狭い道――に、虎徹とバーナビーはいた。

虎徹はそんな道に、アイパッチをしたまま仰向けになって寝ている。その隣に、バーナビーはしゃがみ込んで虎徹の様子を覗いていた。

バーナビーの声に、虎徹が苦笑いのような表情で口を開く。

「結構痛くなってきた……」
「……何も出来なくてごめんなさい、きっともうすぐ斎藤さんの車が来ますから」
「ん」

バーナビーが虎徹の手を両手で取って握った。

虎徹の肩からは決して少ないとは言えない量の血が流れている。
先程、強盗がゴールドステージにある大きめの銀行から金を奪って、車で大通りに逃げ込んできた。その現場に居合わせたのが、昼休みに昼食をとりに大通りを歩いていた虎徹とバーナビーだった。
すぐに状況を把握し、能力を発動して強盗の車を止めたまでは良かったのだが、犯人が隠し持っていた拳銃で、虎徹が肩を撃たれたのだ。しかし、まだ肩だったから良かった。虎徹が咄嗟に避けなければ、命が危なかったかもしれない。
それから拳銃を取り上げ、銀行からの連絡ですぐに来た警察に犯人を引き渡し、この暗くて狭い路地に来たのだ。そして今に至る。

「やっぱり、救急車を呼ぶべきだったんじゃ……」
「いや、こういうのは、普通の病院より、ヒーロー事業と関係のある所の方がいい、と思う」

虎徹は息が荒く、言葉が途切れ途切れになっている。
撃たれたと言っても、射抜かれたのではなく掠めただけなのだが、それでも消耗は酷い。

「銃で撃たれた、なんて言ったら、向こうも困るだろ」
「……確かに普通の病院がそういうのに適切な対応をしてくれるかは微妙ですよね」
「だろ?」

虎徹の怪我は、血が多めに出ているだけで致命傷では無い。それが二人ともわかっているからなのか、お互い妙に落ち着いている。
とりあえず、痛みが敵だ。

「……痛みます?」
「結構」

バーナビーは、見ていて情けなくなるような顔をして、不甲斐ないです、と小さく呟いた。

「僕に何か出来れば良いんですけど……」
「いやぁ、こればっかりは、なぁ」

すると、何を思ったのか、バーナビーが身を乗り出してきた。そして、虎徹の唇に自分のそれを押し当てる。しばらくそうしてから、顔をゆっくりと離した。

「バ、バニー?」
「前にどこかで聞いたことがあって……キスすると痛みが和らぐとか」
「そう、なの……」

バーナビーの顔は真剣そのもので、また唇を重ねてきた。
何回も何回もキスされるうちに、虎徹の頭からは痛みが消え、逆にむず痒さのようなものが広がっていった。


(――あ、確かに、痛みに鈍くなってきたかもしれない)




[ 2/2 ]

[*prev] [next#]

[目次]
[しおりを挟む]
140


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -