日が落ち始める時間。世間は夕飯の支度をしている頃だ。
カリーナの部屋の窓からはオレンジ色の光が差し込んでいる。

全身を映し出せる大きな鏡の前で、カリーナは自分の服装を確かめながら代わる代わる色々な小物を頭に乗せる。

「髪上げた方がいいかな?」

カリーナはそれまで頭に付けていたカチューシャを外し、髪を全部掴んで大胆に頭の上に上げる。

「やっぱり下ろした方が似合う?」

さらりと髪の毛を下ろし、次は大きめのリボンを手に取り頭に乗せる。
しかしそれも気に入らなかったらしく、カリーナはリボンを置くと他のアクセサリーを探しはじめた。

「このファー付きのやつどう思う?夏にファーはナシかな……」
「…………」
「ねー!ハンサム聞いてんの!?」

カリーナは、鏡に映るバーナビーに怒鳴った。
バーナビーは先程からベッドに座って黙ったまま雑誌をパラパラと見ている。そんなバーナビーが、カリーナの声で渋々と言った風に顔を上げた。
カリーナは彼の方に向き直り、どう?と問い掛けた。

「髪上げた方がいいかな?」
「……そうですね」
「そんな露骨に興味無さそうな顔しないでよ」

バーナビーが立ち上がり、鏡の前に立つカリーナの髪を纏め始める。カリーナがヘアーブラシを後ろに渡すと、バーナビーはそれを受け取り綺麗に髪を纏め上げていく。
カリーナの頭上でふんわりと"お団子"と呼ばれる形で纏め、さらにヘアーアクセサリーを飾り付ける。

「……そういえばドレスはこれなんですか?」
「そうよ」

今カリーナが着ているのは黒で統一された大人っぽいドレスだった。裾にレースがあしらってある、上品なものだ。


今日はヒーロー達が完全にオフとして集まる日だ。
特に何の記念日でも無いのだが、何かの記念日にはヒーローとしてなんらかのパーティーに参加させられる。
クリスマスだってニューイヤーだって、CEOやスポンサー達を呼んでのパーティーだ。たまにはヒーローとしてではなく一般人としてパーティーがしたい。
誰からともなくトレーニングルームでそんな話をしていたのが発展して、ネイサンの店を貸し切りにしてパーティーをしようということになった。その日が今日なのだ。


「普段会うのとは違うんだもん、オシャレして行きたいじゃない」
「オシャレって思われたいんですよね」
「そ……それは、まぁ、そうよ」
「虎徹さんに」

カリーナの肩が面白いくらいに跳ね上がる。
バーナビーは苦笑した。

「アンタって本当に性格悪い」
「それはどうも」
「褒めてない!」

耳まで真っ赤にしたカリーナの髪を、バーナビーは今度は解き始めた。

「やっぱり髪を上げるのはやめましょう」
「え?どうして?」
「このドレス、背中が開きすぎです」

バーナビーは、大きく露出された背中を覆い隠すように、髪を梳かす。

「そ、それが大人っぽいんじゃない」
「わかってないな、こんなに露出させてたら虎徹さんは何て言うと思います?」
「さあ……」

バーナビーは梳かし終わった髪に少しスプレーをかけ、天然で緩くウェーブするクセを整える。
天然のままでも綺麗に波打ってはいるが、やはり人工的に整えた方が見映えは良い。

カリーナは、虎徹が何て言うかを考えているらしい。上手く想像が付かないらしい彼女に、バーナビーは口を開いた。

「お前さ……そんなに背中開けてて寒くねーの?」
「あ……」
「今の若い子ってみんなそうなの?寒かったら言えよ、冷房止めるから」
「すごい言いそう!」

カリーナは思わず吹き出し、そのまましばらく笑っていた。

「面倒な人を好きになりましたね、貴女」
「ホント……なんであんな人好きになっちゃったんだろ」

先程カリーナが何十個目かに試着していたカチューシャを取り、バーナビーは頭に付けさせる。カチューシャに付いている黒い花のコサージュが良い感じにドレスに合っている。

「あ、それから」

バーナビーはストールを彼女の肩にかける。

「ストール?」
「それ羽織っておいて下さい」

そう言われ、カリーナは黒いストールをちょうど胸元を隠すような位置で結ぶ。

「なに?今度は"胸が開きすぎ"?」
「はい、……無い胸がバレますから」
「喧嘩売ってんの?」

そう言いながらもカリーナはストールを外さない。

そろそろ時間だ、とバーナビーは真っ白なシャツの上の真っ黒のネクタイを締め直す。
ベッドの上に投げ出していたスーツを片手で掴み、部屋の外に出ようとドアを開けた。

「あ!靴も選んでよね!」
「ちょ……そんな時間あるんですか?」
「無いから選んでって言ってんの!」

バーナビーが開けたドアを、カリーナがくぐり抜けて行く。

「早くして!ちょっとでもタイガーに可愛いって思われたいんだから!」

常になく本心をあらわにする彼女の様子は、開き直ったか、と思うくらいだった。

(――……はぁ、本当、)

バーナビーは少し固めた髪を崩さない程度にかきあげた。

(――なんでこんな人、好きになっちゃったんだろう)



僕の好きな人は、恋をしている。



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