「虎徹さん虎徹さん」
「ん?」

トレーニングやノルマ外のデスクワークなど他にやるべきことは色々あるという状態で「暇」と言っていいのかはわからないが、とにかくその日のノルマは終わっている。
虎徹とバーナビーは自分達以外誰もいないオフィスで「暇」を持て余していた。

虎徹は先ほどからコーヒーを片手に新聞に目を通し、バーナビーはパソコンを弄っていた。お互い言葉を交わすことは無かったが、居心地の良い無言だった。

そんな中で、バーナビーが唐突に口を開いたのだ。
世間話をするかのようなその口ぶりに、虎徹は思わず頬が緩むのを感じた。
今までこういった隙間の時間も無駄に出来ないと言わんばかりに仕事をしていたバーナビーが、こうして「普通」にしているのがすごく嬉しい。自分に感化されたのだろうかと思うと、それは自意識過剰かもしれないが、やっぱり嬉しい。

「なに?」
「僕、今からあなたに嘘をつきます」
「嘘?」

エイプリルフールというやつだろうか、とも思ったが、それにしては日付が違う。それにもしエイプリルフールなのだとしたら、嘘をつくなんて宣言したりはしないだろう。
なんなのだろう、と虎徹は首をかしげる。

「嘘だって先に宣言しちゃうなんて珍しいな」
「いいですか?絶対嘘ですからね」

バーナビーは虎徹の方を見てそう念を押してから、口開いた。

「僕、あなたのことが好きです」
「…えっ」

バーナビーはそのあとすぐにまたパソコンの方に向き直る。耳まで赤かったのがちらりと見えた。
しばらく虎徹が言葉を失ったままでいると、バーナビーがくすくすと笑った。

「本気にしてるんですか?」

その問いかけに、虎徹は頷いた。

「だって、嘘じゃねぇだろ?」
「……」

バーナビーの瞳が揺れる。
ぎゅっと唇を噛み締めた動作は、きっと無意識のものだ。

「……嘘だって言ったじゃないですか」
「言ってたけどさ」
「じゃあなんで嘘じゃないなんて……」

「今からつくって宣言した"嘘"、"絶対に嘘"ってやつだろ?」

"今から嘘をつく"と言った、その直後に"絶対に嘘"とバーナビーは言ったのだ。だったら、そのあとの告白は嘘じゃないということになる。
虎徹はバーナビーの顔を覗き込むように見詰める。その頬は可哀想なくらいに赤かった。

「こういうときだけ……、…いつもは鈍いのに」
「好きな奴からの告白だぞ?聞き逃すわけねぇだろ」
「そういうところが嫌…………え?」

バーナビーの目が丸くなる。
一瞬何に反応したのかがわからなかった虎徹は、少ししてからハッと口を手で押さえた。

「……今、あなた、す、好きって」

やっぱり言っちまったか、と虎徹はため息をついた。
最高のシチュエーションで言いたかったことが、ついポロッと出てしまったのだ。

「…なんで聞き取るんだよ…」
「す、好きな人からの、告白、ですから」


お互い顔を赤く染めたまま、これからどうしようと考える。
顔を上げたいのに目を合わせられない。
何か言いたいけれど言葉が出てこない。

今度素敵な場所を考えてもう一度言い直そう、と2人して心に誓った。



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