「クリスマスって、どう過ごしたらいいのかわからないんです」
朝、ベッドから身体を起こしても低血圧のせいでまだ半分寝ているような状態のバーナビーを無理矢理リビングに引っ張り出したのが30分前のこと。
それから虎徹が淹れたコーヒーを飲みながら、今やっと頭が覚醒したらしいバーナビーが、そんなことを言った。
「どうって?」
「うーん、そもそもクリスマスがどんな行事なのかとかがわからなくて」
朝は少食のバーナビーの目の前の机にサラダとパンを置き、虎徹も自分の分のそれを用意して向かい側の椅子に座った。お互いを正面にして、朝食を始める。
「いただきます」
2人で手を合わせて食事前の挨拶をする。
そんな文化を知らずに育ったバーナビーが食事前に「いただきます」と言うのは、虎徹と一緒に時間を過ごすうちに身に付いたことだ。
ジュースを2つのグラスに同じだけ注ぎながら、虎徹は口を開いた。
「で、なんだっけ」
「あ…はい、それで、クリスマスってどうやって過ごすものなんですか?」
「うーん…」
それは、生きているうちに自然にわかっていくものであって、いざ口に出して説明しろと言われると難しいものだ。
虎徹は首を捻ってから、側にあるテレビの電源をつけた。画面の中にはシュテルンビルトの街の様子が映し出されている。
『こちらはシュテルンビルト、ブロンズエリアの巨大クリスマスツリー前です!まだ午前なのに人が沢山います!』
街はクリスマス一色だ。いつもよりも浮き足の立っている人々で賑わっている。
こういうときほど事件があったりして、クリスマスだというのに楓にはプレゼントを郵送するくらいしか出来ないのはもどかしい。
「バニーちゃん、サンタクロースは信じてる?」
「信じてたんですけどね。4歳までは」
「あー…」
バーナビーは暗に、サンタクロースを演じる人が居なくなってしまったのだと言っていた。
マーベリックかサマンサあたりが代行を務めていたのかと思っていたが、そういえば彼は孤児院に預けられたのであった。子供が持っているべき夢を捨ててしまうのも無理はなかっただろう。
「クリスマスプレゼント買いに行こうか」
量の少ない朝食を食べ終えた虎徹はそう提案する。その言葉に、バーナビーは不思議そうな顔をした。
「楓ちゃんにはこの前買ったでしょう?」
「うん、だから、バニーちゃん用。なんか欲しいものある?」
そう言うと、バーナビーはふるふると首を振りながら言った。
「いいですよ、そんな…悪いですから」
「遠慮すんなって!じゃあ街ぶらぶらしながら欲しいもの探そうぜ」
「はい…」
自分は「クリスマスの過ごし方を知りたい」と言っただけなのに、こんなことになるとは。バーナビーは思わぬ展開に苦笑した。
窓の外を見ると、雪が降っている。これが"ホワイトクリスマス"というものなのだろうか。
慌ただしく外出の準備をする虎徹の姿を、バーナビーは目で追いかける。
戸締りやガスなどのチェックをしてから、外は寒そうだから、と虎徹がマフラーと手袋をバーナビーに手渡した。
『クリスマスは、大切な人と過ごすロマンチックな日です!』
テレビの中の女性が、楽しそうにそう言った。
「大切な人と一緒に過ごす、か」
バーナビーはテレビの電源を消して、玄関に向かう虎徹の背中を追いかけた。
(なんだ、僕もちゃんと出来てるんだ、クリスマスの過ごし方)
雪の降る街を並んで歩くのであろう、少しだけ未来の自分達を想像して、バーナビーは微笑んだ。