ヒーローがどんな状態であれ、事件は起こる。

トレーニングルームで、一斉に全員のPDAが鳴りだした。
即座に応答すると、大したこともないとは言え、やはり事件が起こったとの連絡が入る。
疲れてるのに、なんて文句は誰も言わない。全員一斉にトランスポーターに向かって歩きだした。

言葉は通じなかったが、PDAが鳴ったことでバーナビーも事件が起こったことくらいはわかる。バーナビーも斎藤の待つトランスポーターに向かって足を進めた。

「待てよ!」

その片腕を虎徹が掴んだ。
他のヒーロー達も何事かと2人を見る。

「言葉がわかんねぇなら、なんかあったら危険だろ。お前はここで待ってろ」
「―――?」
「いざって時に通じなかったら危ねぇだろーが」

待ってろ、という言葉をわからせるために、虎徹はバーナビーの肩を掴んで無理矢理その身体をベンチに座らせる。
状況を理解したバーナビーが、即座に立ち上がった。

「――――!」
「駄目だって、危ねぇから!」
「―――、―――!!」

自分は戦える。
そう言っているような顔だったが、虎徹だって譲れない。
もしも何かあったときに、危ないと言ってもそれがわからないのだから。

「良いから待ってろって!」

いつになく聞き分けのないバーナビーに、周りのヒーロー達も口を開いた。

「そうよハンサム、危ないわ」
「ここは私達に任せて、バーナビー君は待ってた方がいい」
「―――…!」
「警備員さん、コイツ押さえといて下さい!」

虎徹は側に立っていた複数の警備員にバーナビーを任せて、他のヒーロー達とトランスポーターに向かって走った。
警備員達に身体を取り押さえられ、バーナビーはどんなに足掻いても身動きをとることはできなかった。
バーナビーが上げる悲鳴のような叫び声を聞くのが辛くて、虎徹は一回も振り返らずにその場を後にした。


**

至ってシンプルな事件を解決させ、虎徹は急いでトレーニングルームに戻った。
バーナビーはどんな様子だろうと、そればかりが頭を支配した。

少し無理矢理すぎた。言葉がわからない状態で見知らぬ複数の男達に取り押さえられ、見慣れた仲間達はみんな事件現場に出動。酷く心細かっただろう。
すぐに行って顔を見せて、安心させなければ。

駆け足でトレーニングルームまで行き、自動ドアを開ける。

「バニー!」

部屋に入るなり虎徹を襲う鋭い視線と荒い息遣い。
そこにいたのは、肩で息をしながらこちらを鋭く睨むバーナビーだった。
部屋は荒れきっており、頑丈な床や壁に幾重もの引っかき傷や何かがぶつかった跡のような窪みがあった。

「…バニー」

穴の開いた壁に寄りかかるバーナビーの姿は、まるで手負いの動物だった。何者も自分に触れさせないと、そう言葉以外の全てを使って全力で示しているような、そんな姿だった。
見てみると、バーナビーを拘束しておくように頼んでおいた警備員達はみんなバーナビーのことを遠巻きに監視しているだけで、バーナビーが彼らの方に視線をやると彼らは少し怯えるような素振りを見せた。

「怪我させてねぇだろうな」
「―――」
「させてないよな、ごめんな」

バーナビーは彼らに怪我を負わせてはいない。負わせるような人ではないし、それに「怪我させてないか」と問いかけたときに警備員達が少し首を振ったので、その点は安心してよさそうだ。
しかし怪我をさせていないからと言って、暴れたのは間違いがなかった。

「なんで暴れたんだ?」

走ってトレーニングルームに戻ってきた虎徹のあとを追って、他のヒーローたちも部屋に入ってくる。
部屋の荒れ方に少し驚いたような声を上げつつ、彼らはなるべく触れない方がいいのだろうと察したらしく、虎徹達2人に直接声を掛けることなく各々トレーニングを始めた。

「……一緒に行きたかったとか?…でもさ、いざって時に言葉通じなきゃ危ないだろ…」
「―――」
「心配だったんだよね!」

言葉が通じずに困惑する虎徹の前に、ホァンが歩み出た。
いまだに人間を目の前にした小動物のような目つきでいるバーナビーの頭を撫でながら、ホァンはバーナビーに語りかけるように言葉を紡ぎ出した。

「大切な相棒が一人で戦いに行っちゃって、その様子がわからないなんて、すごく心配するもんね」

壁に寄りかかっているバーナビーは自分よりも何回りも身体の小さい彼女にぎゅっと抱き締められながら頭を撫でられているうちに、鋭い目つきも肩を使っての荒い息も、徐々に消していった。
虎徹はただただ黙ってその様子を見つめる。

(そうだ、言葉がなくても意思疎通はできるんだ)

それでもバーナビーは言葉が欲しそうな目をしている気がして、居たたまれなくなって虎徹はバーナビーの腕を引っ張って駐車場に向かった。


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