じゅうう、と食欲をそそる良い音が閉めきった個室に広がる。
お好み焼きという料理を、バーナビーは知らなかった。
個室制のお好み焼き専門店で、個室に入るなり目に飛び込んでくる壁一面に貼られたメニューや、机の大部分を占める鉄板、4枚用意された座布団。お世辞にも広いとは言えない空間の、何もかもが新鮮だった。

メニューはよくわからないので注文は虎徹に任せ、バーナビーは鉄板をまじまじと見詰める。
その様子を見ていた虎徹に、熱いから触るなよ、と子供に言い聞かせるように注意され、バーナビーは少し苦笑した。正直に言うと触るところだった。

備え付けの電話で注文するとすぐに店員が持って来たお好み焼きの生地と蕎麦と、何枚かの小皿と、それからヘラ。
バーナビーは虎徹に渡されるままにヘラを片手に握ったが、使い方なんて見当もつかなかった。

そうしているうちに虎徹は手際よく、鉄板に油を敷いたり野菜を置いたりし始めた。

「バニーちゃん、そっちのボウルのやつ全部出しちゃって」

ボウルに入ったドロドロした生地や野菜を混ぜたものを指差し、虎徹がそう指示を出す。
バーナビーは言われるがままに、机の大部分を占める熱い鉄板にボウルの中身を出した。

「こうですか?」
「ん」

虎徹は軽く返事をして、両手に持ったヘラでその生地の形を整える。

「そういうのって、お店の人がやるものではないんですか?」

生地を綺麗な円形にした虎徹が、バーナビーの質問に答えながら、次は蕎麦の準備を始めた。

「やってくれるところもあるし、ここでも頼めばやってくれるかも」

蕎麦を鉄板に出し、鉄板の上で軽く混ぜつつ虎徹はバーナビーの様子を窺う。バーナビーはヘラを片手に手持ち無沙汰にしていた。

「セルフの方が、楽しいだろ?バニーも焼きそば作れ」
「焼きそば?」
「その蕎麦を鉄板で焼くんだよ」

お好み焼きと焼きそばが混在する鉄板の上に、さらに焼きそばが加わる。時々油が跳ねてきて少し痛かった。
ソースをかけるとさらに美味しそうな匂いになるそれらをヘラで触りながら、バーナビーは虎徹に言った。

「夜、話があるんです」
「…今じゃダメなのか?」
「無理です、夜するって決心したのでまだ心の準備が」

そっか、と言いながら、虎徹は必死に話がなんなのかわからないフリをした。
本当は、わかっているけれど。

今夜また告白されたら、俺はなんて答えれば良いんだろう。
どんな言葉で答えようと、結果は一緒だろう。
(―もう、答えは決めているから。)

「先輩、そろそろ焦げますよ」
「あ、あぁ、じゃあもう食べようぜ」

海で遊びすぎたおかげでお昼と言うよりおやつのようなものになってしまった食事が始まる。
上手くお好み焼きを掴めないバーナビーの分を小皿によそってから2人で食べはじめたそれは、なんだか甘酸っぱいような味がする気がした。



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