「1週間さ、ここで住ませてくれないかな」

全く知らない人が、そう言って僕の家に押しかけて来たのが始まりだった。
その人は30代半ばくらいのおじさんで、本当に全く面識の無い人間だ。

家のチャイムが鳴り、夜も深まってくるそんな時間帯に一体誰だと思いながらもドアを開ける。ここでモニターで相手の姿を確認しなかったのは僕のミスだ。

ドアの前にいたのはその全く面識の無い人間1人で、彼は頭に被った帽子を取ると頭を深々と下げて、言ったのだ。
ここに1週間住ませろと。

「嫌です」
「そんなケチくさいこと言うなって!」
「どうしてそんなに慣れなれしいんですか?いい加減にして下さい」

そう言って適当にあしらって、ドアを閉める、その行動予定は彼に破壊された。

「待てよ!」

僕がドアを閉めようとしたその腕を、彼が掴む。
驚いて咄嗟に腕を振り上げて、掴んでくる腕を振り払おうとしたが、相手の力も相当なものでそれは外れることがなかった。

「…っ、なんなんですか!」
「わかった、じゃあ5日でいい!」
「なんでですか、僕達赤の他人じゃないですか!どうしてそんな相手にそんなことしなくちゃいけないんですか!?」

つい声を荒げてしまう。
それが聞こえてしまったのかもしれない、マンションの隣人がドアを開けるような音が微かに聞こえた。

「…とりあえず入るだけですからね」

隣人にこんなところを見られるのもすごく癪だ。
僕はそれだけの理由で彼を家に入れた。

思えば、何故ここで無理矢理にでも彼を追い返さなかったのかが不思議だ。


「なんにもない部屋だなー」
「お節介ですよ」
「なぁ、キッチン借りていい?」

咄嗟に、嬉々としてキッチンに入っていこうとするそのおじさんの肩を掴む。
家の中を物色しろと言った覚えは微塵も無い。

「何言ってるんですか、入るだけって言いましたよね?」
「良いじゃん、キッチンくらい…」
「…乞食?」

そうだ、彼は乞食なんだ。
住むところも無くて、きっとお腹を空かせているんだろう。ブロンズステージあたりにはそういう人も少なくないかもしれない。
何故わざわざゴールドステージに乞食に来たのかはわからないが、そういうことなら納得する。

しかし、彼の答えは違った。

「ええー、違う違う!これでも普通の会社員ですよーだ」
「…じゃあ何故こんなところに…」
「うーん…お前が元気無かったからかな」

思わず、は?と間の抜けた声が出る。
どういうことだ、それは。

「なぁ、3日でいい。3日で良いから住ませてくれねーか?もちろんタダでとは言わない。俺がいる間、食事とか洗濯とかそういうのは任せろ」
「……、…3日、ですよ。明々後日の夜までには出て行って下さいね」

妥協してそう言うと、彼の表情がぱぁっと明るくなる。

「ありがとう!!ありがとうな、…えーっと」
「…バーナビーです」
「そっか、バーナビーさんな!」

子供のような表情で笑うおじさんに、僕は何故か心が暖められるような、そんな感じがした。

何か運命的なものなのかもしれない。
そんな風に、らしくもなく漠然と思った。



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