昼食を終えたあと、二人でずっとテレビを見ていた。
それは映画でもなんでもなく、録画して溜めていたHERO TVだ。

まだお互いを嫌悪していた頃のものから、最近のものまで。
今回バーナビーが撃たれたあの事件は避けようとしたが、当の本人が見たいと言うので見た。しっかりと編集がされていて、その撃たれた瞬間以降の自分達の姿は画面の中にはいなかった。

意外とそれだけで時間は潰れるもので、気が付けばもう夕方だった。

「明日は俺、仕事休むからさ」
「え?明日オフでしたっけ?」

膨大な量を録画してあったので、HERO TVは未だに終わらない。
ソファーに座ったままテレビを見続けるバーナビーをそのままに、虎徹はキッチンで炒飯を作っていた。

ご飯を炒めながら、虎徹はバーナビーの質問に答える。

「ううん、休んじゃった。有給溜まってたし」

休みをとった理由はバーナビーも察したらしく、それについては何も言ってはこなかった。
ソファーに座ったままのバーナビーの顔は、キッチンの虎徹からは見えない。でもその肩が少し下がっているのがわかった。

「…すみません、なんだか…虎徹さんに迷惑掛けることになるなんて」
「なーに言ってんだよ、お前をこの状態にしちまったのは俺だし、休みをとりたかったのも俺だし」
「…」

でも、となおも落ち込んだ様子のバーナビーの目の前に、美味しそうな匂いを纏った炒飯が現れた。

「おまちどーさま」

虎徹がにっこりと笑うと、バーナビーもつられて微笑んだ。

いただきます、と二人で声を合わせて挨拶をする。
バーナビーにとってそれが当たり前になったのは虎徹の影響だ。

スプーンで掬った炒飯を口にいれ、もぐもぐと咀嚼する。
虎徹の作る炒飯は、レストランで食べるどんなに立派な料理よりももっとずっと美味しいとバーナビーは思っている。

「美味しい?」
「はい、すっごく」
「良かった」

バーナビーは、食べていた口の中の炒飯が無くなると、皿から新しい一口を掬う前に口を開けた。
口にものを入れたまま喋らないのは、身に染み付いたことだった。

「毎日でも飽きません。このチャーハン」
「そんなに?」
「ええ…、…毎日食べられたらいいのに」

すぐ隣に座っている虎徹が、バーナビーの方には身体を向けないままに言った。

「作ってやろうか。この先、毎日。お前が飽きたって言うまで」
「…飽きませんから、一生作ることになりますよ」
「一生だって作ってやるよ。50年でも60年でも」

お互い、身体を同じ方向に向けたまま話していた。
肩が触れ合う相手の顔は見えない。見えるのは、手に持ったチャーハンだけだ。

「そんなに長く一緒にいるんですか、僕達」
「ああ、死ぬまでずっと一緒だ」
「僕そんなに長く生きられませんよ」
「いーや、生きられる。二人で一緒に、両方爺さんになっても側にいる」

どちらからともなく、手に持っていた皿を机に置いた。
お互いの顔は、何故かまだ見ることができなかった。

「…なんですかそれ、プロポーズですか?本気にしますよ?」
「こっちはもう本気だよ」
「だって、僕、あなたといつまで一緒にいられるかわからない」
「大丈夫だ、バニー」

虎徹は、「なんの根拠もない」と自分でわかっているのに、自信をもって言い切った。
何故か自信があった。何故か、大丈夫だと本気で思えた。

「大丈夫、お前の身体は絶対良くなる。お前は死なない。そんで、ヒーロー復帰はしてもしなくても、ずっと俺の側にいてくれる、そうだろ?」
「…どうしてそんなことが言えるんですか」
「俺の勘は当たるんだよ」

虎徹はバーナビーの方に身体を向けると、相手の両肩を掴んで自分の方に向けさせた。
既に涙で濡れていたその顔は、今まで見てきた中で最高の泣き顔だと思った。

その顔を自分の肩口に埋めて、頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
虎徹の背中に回った腕にも力が入った。

「怖いか?」
「少し…でも、もう大丈夫です」

"あなたの勘が当たるって信じてますから"と言ったその口から、叫び声が上がった。

「…ぁぁああああああ!!」

突然、バーナビーが自分の胸を掴んで叫びだした。
その身体が、ソファーから雪崩れるように崩れ落ちる。

「バニー!」
「うああぁ……っ、く、あ…!」

すぐに仮死化だと察した虎徹は携帯電話で救急車を呼ぶ。その間ずっと摩り続けていたバーナビーの身体は、気味が悪いほどにすぐに落ち着いた。
「死」んだという証拠だ。

今朝、トレーニングルームで苦しがりながら仮死化した。そして今も、苦しみながら仮死状態に入った。
苦しがりながらというのがただでさえ不審なのに、さらに一日に二回もきてしまうとは。と虎徹の胸がざわめきだす。

さいごの日は、もう目前に迫っていた。


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