朝、バーナビーの家に泊まっていた虎徹が目を覚ますと、バーナビーは既にもう起きていた。
おはようと声を掛けて、虎徹が来るようになってから買った少し大きめのテーブルにつくと、バーナビーがキッチンから出てくる。

「どうぞ」

ガタン、と大きな音を立てて机に乗せられた皿を見て、虎徹が苦笑する。
食器を机に置く際に大きな音を立ててしまうあたり、バーナビーは本当に家事に慣れていないようだ。

「聞いたら悪いとは思うんだけどさ」
「はい?」

虎徹は、出された皿の上の茶色くパラパラとしたものを指差す。

「これは、なんだ?」
「……」

醤油に浸した米だろうか。見た目はそんな感じだった。
これで焼きおにぎりでも作れば美味しそうな、そんなもの。

しかし、バーナビーの答えは予想をはるかに外れるものだった。

「チャーハンです」
「……!」

虎徹はそれを聞いてはっとする。
確かに匂いはチャーハンだ。ではこの茶色はなんだ。全て焦げか。

「…ごめんなさい、無理して食べなくて良いですから」
「な、何言ってんだよ!食べるに決まってんだろぉー?」

多少どもりながらもスプーンを手に取った虎徹は、チャーハンを少し掬う。
どう見てもまともな味はしそうにない。

「…あの、本当、気にしなくて良いですから…やめて下さい」
「なんで?すっげー美味しそうじゃん!頂きまーす!」
「ごめんなさ、それ本当に失敗して……絶対美味しくないですから…」

意を決して口に含んだそれは、チャーハンの味などしない上に酷く苦い。
噛むと、かたいご飯がガリガリと音を立てる。

「…これ、バニーちゃん練習してたんだっけ」
「はい……サマンサおばさんに電話で作り方教えてもらいながら」

ふと、虎徹がそれで気がつく。

「直接作ってるの見せてもらったりは?」

虎徹がチャーハンを覚えたのは、母親の安寿がよく目の前で作ってくれていたからだ。
卵をとくだとか、ご飯を炒めるだとか、液晶モニターが付いているとは言えど電話だけでは上手く掴めるはずがない。

「いえ、それは…ないです」
「あーそれじゃダメだ、ちゃんと直接見ないと。材料まだある?」
「…えーと」

バーナビーが、目をうろうろと泳がせながら言い辛そうに口を開く。

「今日も何回も失敗しちゃって…それで材料最後だったんです」
「…!」

時刻は朝。
朝食なのに何回も作り直したということは、バーナビーは今朝、相当早く起きていたはずだ。
自分に手料理を食べさせるために。

「…バニーちゃん、今日仕事無いよな?」
「はい…」
「ん、じゃあ材料買いに行こうか」

虎徹の提案に、バーナビーがはっと顔を上げる。
ガリガリと音を立ててその苦くかたいチャーハンを胃に詰め込むと、虎徹は立ち上がった。

「な…全部食べ…っ!」
「美味しかったよ?」
「そんなわけないじゃないですか……」
「んー?」

別に、「美味しい」の基準は味だけではない。
朝早起きしたり、人に作り方を聞いたり、そんな苦労までして虎徹に食べさせたかったものが、美味しくないわけがなかった。

「じゃあ今日は特訓だな、行くぞバニーちゃん」
「はい…っ」

にこりと笑ってバーナビーの手を引く虎徹に、バーナビーも目を細めた。



[ 2/2 ]

[*prev] [next#]

[目次]
[しおりを挟む]
108


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -