話の途中で何度か意識を失いかけ、話が全部終わった頃には目を見開き身体を大きく震わせることしか出来なくなったバーナビーの背中を摩り、俺は説明の中で後回しにしてきた一番残酷なことを最後に言う。

「ヒーローとしての復活は無理らしい」

げほげほと咳をするように息をするバーナビーは、過呼吸になりかけていた。落ち着かせるために抱きしめた身体は、がくがくと震え続けている。

「お前の身体がこうなったのは、俺の勝手な判断のせいだ。生きてて欲しかったんだよ」

抱きしめていた身体に、どんと両手で突き放される。肩で息をするバーナビーが、虎徹の身体を突き放した。
その目には涙が浮かんでいて、本人が受けたであろうショックを想像するだけでこちらまで意識が飛びそうだった。

「やめて、ください」
「…なに」
「抱きしめないで下さい」

震える声で、バーナビーはそう言った。

「触らないで」
「…バニー」
「…触、らな……」

ベッドの上にぺたりと座り込んでいるバーナビーは、両手で自分の身体を掻き抱くようなかたちで身体を丸める。
今にも泣き出しそうな顔で、声で、バーナビーは叫んだ。

「だって…こんな、こんな……死体じゃないですか、ゾンビじゃないですか!生きてるって言っても、死体ですよこんなの!…やめて下さい、優しくしないで下さい…!」

リビングデッド、と彼は言った。
ゾンビだとか、死体だとか、そんなものなわけがない。頭ではそうわかっているのに完全に否定出来ない自分を、虎徹は呆然と客観視していた。
可哀想な彼を慰めるか、酷いことを口にする彼を叱るか、また何も言わずに放っておいてやるべきか、全く見当がつかない。全部したくて、でも全部違う気がする。

「ヒーローにも戻れないし、こんな…気味の悪い身体で、あなたと生きていける気もしません」

消えそうな声で弱弱しく、それでもはっきりと言葉を紡ぐバーナビーの身体を、力任せに掻き抱く。死にたくない、怖い。そう呟くバーナビーをただ見ているだけなんてできなかった。背に腕を回すと必死に抵抗されたが、構いはしなかった。

「愛してるよ」

色々言いたいことがありすぎてそれしか言えなかったが、その言葉が全てだった。

「バニー、ごめん」
「…なんで、謝るんですか!」
「色々、謝りたかったんだよ。あの日俺の不注意のせいでお前が怪我したこととかさ」

それを言うと、腕の中でバーナビーが虎徹の胸板を叩きながら鼻を啜る。彼の顔が乗っている肩が熱いのは、涙のせいだろうか。泣いているのか、バーナビーは。

「お互い、謝るのはナシだって言ったでしょう…僕だって、僕のせいであなたが思い詰めたらごめんなさいって、言おうと思って…でも我慢してたんですから」
「……」
「謝らないで下さい…、謝られたら、僕が間違えたことをしてるような、あなたに間違えたことをされてるような、そんな気になる」
「…ごめん」

子供みたいに肩を上下させながら泣きじゃくるバーナビーの頭を撫でていると、自分の顔にも熱いものが流れたのを感じた。
困ったな、涙の止め方がわからない。

「……僕は、間違えたことをしましたか?あなたは間違えてるんですか?」
「…わかんねーけど、後悔してない。生きててくれてんだから、あとはなんだって良い」
「僕も間違えたつもりはありません。あなたが無事だったんですから、この怪我は誇りです」

いつの間にかぎゅっと強く抱きしめ返してきてくれていたバーナビーを一層強く抱きしめて、それからもう一度ごめんとつぶやく。
するとそれを聞き逃さなかったバーナビーが、涙声のまま薄く笑った。

「虎徹さん、人に良いことしてもらったときは?」
「…ありがと、バニーちゃん」
「はい」

バーナビーをベッドの上に横たわらせて、その上に雪崩れるように乗る。虎徹は、バーナビーの心臓の位置に耳を当てる。
ドクン、ドクンと脈打つそれを聞いていると、今まで流していた涙を上書きするかのようにさらに涙があふれ出した。生きている。それが、どんなに嬉しいことか、少しだけ忘れていた気がする。




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