『アンタ達の話、全部聞いてるけど…様子はどう?ハンサムは大丈夫?』
「んー、本人もかなり怖がってる。ハッキリそうとは言ってねぇけど」

虎徹の携帯電話の向こうからは、ネイサンの溜め息が聞こえた。
バーナビーの身体のことはヒーロー全員が知っていたが、虎徹が相談する相手は大体アントニオかネイサンだった。カリーナもたまに話を聞いてくれるが、女子高生に"内臓"だの"仮死"だのと言うのはなんだか気が引けるからだ。イワンやスカイハイに関しては、話なら聞くとだけ言って、あとは放っておいてくれている。それもあり難い。

「仮死化から起きるたびに、なんで、どうして、って顔してさ…このまま隠しておくのが良いのか早めに言うべきなのかわかんねぇ」

虎徹がそう言うと、ネイサンはうーんと呻って一緒になって悩んでくれる。独断でやるには重すぎるから、一緒に悩んでくれる人がいると心強い。

『難しいわね…ハンサムは今どうしてる?』
「仮死状態。早けりゃそろそろ起きてくる頃だな」

虎徹は、ロフトにある自分のベッドの腰掛けていた。
そしてそのベッドの上ではバーナビーの身体が横たわっている。息はしていないだろうが、相変わらず確かめられない。

『あのね、これはアタシの個人的な意見なんだけど』

だから判断の材料にはならないけど、と付け足してからネイサンが口を開いた。

『どうせ言うなら早いほうがいいんじゃないかしら。伝えたらそれはそれで怖がるかもしれないけど、理由がわからなくて怯えるのと理由がわかってて怯えるの、後者の方が楽なような気がするのよ』
「…そうかな」
『それに、あの子の性格考えると、アンタが隠し事してるってこと自体に腹立てるんじゃない?』

(…確かにそうかもしれない)

ヒーローをやめるとバーナビーに告げた時、彼は俺がそのことを隠していたということに怒っていた。気付けなかったと思い詰めもした。
そうだ、彼はそういう性格なのだ。何を悩んでいたんだろう。
真実を知ったらショックを受けるだろうし、その先ずっと苦しみ続けるかもしれないが、その時は俺が支えると誓ったじゃないか。

「言う。起きてきたら」
『そんなすぐに?大丈夫?』
「わかんないけどさ、でも後伸ばしにしててももっと傷付くかもしれねーから」

虎徹がそう言ったタイミングで、バーナビーの身体がぴくりと動いた。
んん、と寝起き特有の声に、言葉では言い表せないほどの安堵感を覚える。良かった、また生きていてくれるんだ、と。

「お、起きた起きた。代わるか?」
『そうね、ちょっと声聞きたいわ』
「ん…おいバニー、ネイサンから電話」

まだ頭が働いていないらしいバーナビーの身体を軽く揺さぶると、状況把握も出来てないであろう状態のままバーナビーが携帯電話を耳に当てる。

「…こんにちは…」
『ハンサム、おはよ』
「…おはよう、ございます…」

ベッドに横たわったままネイサンの声に答えるバーナビーの声は掠れていた。
久しぶりに話しているというのに、ネイサンの問いかけにただ受動的に答えるバーナビーの様子は前までと変わりのないものだった。

「…虎徹さん、電話…」
「ん?もういいの?」
「…話、終わりました」

そっか、と言ってから携帯を耳に押し当て、適当に言葉を発する。
それから1、2言社交辞令のような挨拶を交わし、今度みんなで会おうと約束をしてから電話を切った。切る直前に「がんばってね」と言われたその言葉に後押しされ、虎徹はバーナビーの目を見る。

「…バニー」
「なんですか?」
「目、覚めた?お前寝起き悪いからさー」

もう大丈夫です、はっきりしてます、と言うバーナビーは本当にいつものバーナビーだった。これなら真剣な話もできそうだ。

(…話すか)

虎徹はベッドの上に上半身を起こしたバーナビーの方に身体を向け、その目をじっと見る。

「なん、ですか」
「話があるんだ、その…お前の身体のこと」

言うと決めてから口にしたのに、その言葉を聞いた瞬間に不安そうに揺らめいたバーナビーの目を見たら、なんだか上手く伝えられる自信がなくなってしまった。




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