バーナビーを治療した医師は、医師と言うよりもメカニックのような印象が強い。

あんな状態のバーナビーと同居するにあたって「仮死化」について色々聞いておこうと、虎徹は医師の元に訪れていた。
病院の院長ももうこちらの事情はわかっていて、バーナビーのことで、と言えばすぐにこの医師の元へ誘導してくれた。

薄暗い部屋の中で、パソコンで何やら難しそうなことをしていたその医師の前の椅子に座り、医師の目を見る。

「仮死状態と言うのは、死んだように見えるけれど実際には生きている状態のことでね」

開口一番に出た言葉に、虎徹は耳を傾ける。

「意識が無く呼吸も止まっているけれど、心臓は動いてる状態のことを言うんだ」

ボールペンを指先で弄りながら話す医師に、虎徹は問い掛ける。

「仮死状態のとき、バーナビーの心臓は動いてるんですか?」
「いや、止まってる」
「…じゃあ、バーナビーは仮死状態なんじゃなくて、一日一回本当に死んでるってことですか」

そうなるね、と聞いた瞬間、虎徹の中に熱い何かが込み上げた。

「なんで、なんでだよ!どうして、そんな…毎日…っ」

毎日、死ぬなんて。

「死んでもすぐ生き返る、だから仮死状態と言うのが妥当だろう?」
「…バーナビーを、どうやって治したんですか?」

声を絞り出すようにして問い掛けた虎徹に、医師は説明した。

「停止している心臓の代わりになるような人工的なものを心臓の位置に入れて身体を縫った。だけどずっとそれを稼働させておくことは今の科学では無理でね、だから一日一回くらいの頻度で自動的に休止するんだ。それが仮死化だ」
「そんなの、生きてるって言うんですか!」
「君が望んだことじゃないのか、あんなに必死に私に頼み込んだ結果だろう。それともあのまま完全に死なせれば良かったのか?」

医師が告げたそれは要するに、バーナビーはもう自力で生きてはいないということだった。
機械だかなんだかわからないが、そんな得体の知れない装置に自分の生命を一任し、この先一生装置に縋って生き延びなければならないということだ。

「…すいません」

それでも、それは確かに虎徹が望んだことだった。なのに怒りと、何故という気持ちでいっぱいだ。

どうして、バーナビーがこんな目に遭わなければならないのだろう。どうして、他の誰かでなかったのだろう。
何故、何故バーナビーだけがこんな目に。
自分が死ねば良かったのか、あの時何故バーナビーは自分を助けたのか。

せめて撃ち抜かれたのが他のヒーローだったら、と考えたところで虎徹は自分の最悪な思考に我に返る。
虎徹は、沸き上がる宛てのない憤慨の念を必死に抑える。

「もう、その"心臓の代わりになるようなもの"が無いと、バーナビーは生きられないんですか」
「それはどうだろう」

医師は、よくドラマの中で医者が座っているような高級そうな椅子に凭れ、くるりと半回転する。

「実を言うと、その装置を心臓の代用にするのは駄目元だったんだ。きっと成功しない、そう思っていた」
「だ、だめ…もと…?」
「彼がこの病院に運ばれて来たとき、彼は本当に酷い状態でね。どうして即死じゃなかったのかが本当に不思議なくらいだった。手の施しようが無かったんだ、何も出来なかった」

直接心臓がやられていたわけではないが、あの位置で弾を貫通させただけあって出血量が凄まじいものだった。
あたりどころが良かったとは言えないがあの位置だったのは不幸中の幸いとは言え、もしもバーナビーではなく一般人がやられていれば死んでいたはずだ。バーナビーだって、能力を発動させていなかったら死んでいただろう。

「それでも、君が"どんな方法でも良いからとにかくバーナビーを助けてくれ"と、そう言うから、せめて何かしておこうと最善の対処をした、それがあの方法で」

あの方法、人工の心臓。

「そんな処置でも、彼はちゃんと生き延びた。いや、生き返った。人はこれを"奇跡"と呼ぶんだ」

奇跡、と小さな声で反芻して、虎徹は医師の顔を見る。

「奇跡ばかりは医学的には何も言えない。だからもしかしたら完全快復まではしなくても、仮死化が無くなるなんてことはあるかもしれない。そうだろう?」

にたりと笑う医師の顔は怪しげなものだったが、何故かとても心強いものだった。

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