それからのバーナビーの身体の快復は凄まじいものだった。

翌日には一般病棟に移動し、3日後には身体が起こせるようになり、5日後には支えられれば立って歩き、一週間後にはゆっくりだが自力で歩けるようにまで回復した。
医師達もその回復力に驚き、ヒーロー達は歓喜で涙した。
本人が嫌がったため顔出しはしないものの、バーナビーの身体の回復はシュテルンビルト市民にも伝わった。

「毎日お見舞いなんて大変でしょう、虎徹さん」

虎徹は、バーナビーの意識が戻ってからも毎日お見舞いに来ていた。
季節感のある暖色系の花を病室の花瓶に生け、虎徹はベッドサイドの椅子に腰掛けた。

「俺が会いたいんだから良いの」
「でも、仕事とか大変じゃないんですか?他のヒーロー達に聞きましたよ、僕の分まで頑張って下さってるって」

それは事実だった。
仕事の出来なくなったバーナビーの仕事は虎徹がこなし、ヒーローショーでも相棒無しでも精一杯頑張っていた。勿論成績は落ちているが。

「すみません、僕のせいで」
「…バニーちゃん、人に良い事してもらった時は?」
「…ありがとうございます」
「ん」

バーナビーはベッドの上でクスリと笑い、それから言った。

「お医者さんも明日には退院して良いって言って下さいましたし、僕もすぐ仕事に復帰しますから、それまでよろしくお願いします」

健気すぎるその言葉に、虎徹はまた目頭が熱くなる。泣きこそしないものの、視界が少し歪んだ。
虎徹は勢いよくベッドに片膝をつき、バーナビーの上半身を抱きしめた。

「バニーちゃん、俺がいつまでも面倒見てやるから!」
「…なんですかそれ、プロポーズですか?本気にしますよ?」

冗談っぽく笑いながら、バーナビーは虎徹の背を片手でぽんぽんと叩く。

「なんだか子供か弟みたいだ」
「…んだよそれ!」
「ふふ、冗談ですよ」

しばらく2人で笑いあう。
虎徹は「バーナビーが笑っている」という事実だけで胸がいっぱいだった。

あの時の血の気の引いた真っ白な顔が、こんなにも赤みを帯びて眩しい表情を作っている。
それだけで幸せだ。

そのうちにバーナビーの身体から突然力が抜ける。
前のめりに、虎徹の身体に上半身の体重を預けきったバーナビーは、眠たそうに声を出した。

「…ん、なんか…急に、眠く…」
「あぁ、寝た方がいいぞ」

脱力してシーツの上に投げ出された手が虎徹のシャツの裾を少し摘む。

「でも、せっ…かく、虎徹…さ…が…」

バーナビーの意識はそこで途切れた。
すぐに寝息を立て始めたバーナビーの身体を、ベッドに横にさせる。本当は寝息など立てていないのだろうが、それを確認する勇気は無かった。

虎徹はさっきまでの柔らかい表情を一瞬で引っ込め、バーナビーを氷のような目で見詰める。
バーナビーの首に手をかけ、力を込めようとしてすぐに手を離す。バーナビーを殺すなんて、出来るわけがなかった。

「バニー」

バーナビーは、仕事を大切にしているし、ヒーローとして活動することを生きがいにしている。
今までずっと隣で彼を見てきて、確信していた。

「いつまでも、俺が面倒見てやるからな」

ピクリとも動かないバーナビーの唇に自分の唇を落とし、虎徹は病室を後にした。




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