ピ、ピ、とたまに不規則になりながらも、ほぼ規則的に電子音が鳴り響く。
もしも今この断続的な音が継続的な音に切り替わったらと思うだけでぞっとする。握っている決して温かくはない手の温度が完全に無機質なものになったらと思うだけでぞっとする。
二度とあんなものは見たくない。あんな、どうすることも出来ないくらいに冷たくなった身体を見たくない。

虎徹と、ベッドに横たわるバーナビー以外は誰もいない薄暗く真っ白な部屋で、電子音はただ静寂の中に響き渡っていた。

眠りつづける、血の気の引いた真っ白な顔を、虎徹は流れる涙をそのままに見詰めていた。


ヒーローとして活動し始めてから史上最悪と言っても過言では無い事件が起こったのは、もう一週間前の出来事だった。
事件の内容は強盗事件。銃を持った複数の犯人が、人質を盾に暴れるという、シンプルでありたちの悪い事件だ。
最初は虎徹もバーナビーも、正直「またか」という気持ちで事件内容を聞いていた。

ところが事件は想像もしない展開を繰り広げた。

虎徹は一週間前のその事件のことを思い出し、バーナビーの手を握る両手に力を込める。
なんの反応もしないバーナビーの顔を覆うマスクは、彼が息を吐き出す度に白く霧を作った。

思い出すだけで身体の震えが止まらなくなる。
犯人の銃がこちらを向き、その指が引き金を引く。スーツを着ていれば安心だったが、生憎スーツは激戦の中で粉々になってしまっていた。
ヤバい、死ぬ。そんなことを考えることしか出来なくなった頭は、身体に「逃げろ」と司令することはなかった。

次の瞬間、虎徹の目の前に飛び込んで来たのは、自分を突き飛ばすバーナビーの姿。それから、銃に撃ち抜かれる彼の身体。
血抹消の中で、バーナビーは膝から崩れ落ちるように倒れた。

それはそれは大きなニュースになってしまったものだ。
アニエスのプロデュースするHERO TVでは、アニエスの計らいなのかあまり取り上げられることはなかったが、他のニュース番組では突然の大事件に興奮気味のキャスター達がこぞって「スーパールーキーが内臓を撃ち抜かれた」と騒いでいた。
シュテルンビルト中に知れ渡ったそのニュースは、キャスターの本人達は真剣なつもりなのかもしれないが、身内である虎徹や他ヒーロー達には「面白いニュースに興奮している人間」としか見れなかった。
実際そうなのだろう。

撃ち抜かれたのは「内臓」と伝えられたし、バーナビーはまだ生きているという情報により、市民達は肺とか腸とかを撃ち抜かれたのだろうと思っているらしい。
現実はそんなに生温いものではない。実際バーナビーが撃ち抜かれたのは、心臓だった。

命中したと言うよりは心臓を掠めたと言う方が妥当なその位置を貫通した弾は、バーナビーの全てを奪って行こうとした。
即死では無かったものの、緊急搬送された先の病院の医師達はみんな諦めたように首を振っていた。

虎徹を含めたヒーロー達はそんな医師達の様子に憤慨し、それから壊れたように大泣きした。

それが、一週間前の出来事だ。
今バーナビーは虎徹に手を握られ、ほぼ規則的な電子音とともに心電図を刻んでいる。

それは虎徹が強く望んだ結果であり、正直信じられない気持ちも強いが紛れも無い事実だ。

バーナビーは、生きている。

虎徹にはそれだけで十分だった。これから先の自分達に何が起こるのかはまだ想像出来ないが、今はそれだけで嬉しかった。

もう一度バーナビーの手を握り締める。

と、本当に微かではあったが、弱々しくバーナビーの手が虎徹の手を握り返した。

「…バニー?」
「――…」

酸素マスクや、衰弱しきった身体のせいで聞き取ることは出来なかったが、バーナビーが虎徹に何かを伝える。
朧げな眼差しで、それでもしっかりと虎徹を見詰めていた。

「バニー…、バニー!」

自分でもびっくりするくらいに目から大量の涙が溢れ出す。虎徹はそれを拭うこともせず、横たわるバーナビーの身体に縋り付いた。

「良かった、バニー…っ」

深夜の病棟で、虎徹の泣き声が小玉した。




[ 2/14 ]

[*prev] [next#]

[目次]
[しおりを挟む]
17


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -