酒を持参して家にやってきた虎徹を、バーナビーは迎え入れる。
その酒は確かに良質そうだ。
「で、猫は?」
「今は僕の寝室にいます」
「見ていい?」
その虎徹の問い掛けにバーナビーは「どうぞ」と答え、寝室に向かった。
ドアを開けると、バーナビーを待っていたかのように猫が駆け寄って来る。
バーナビーを飼い主だと思い込んでいるようなその様子に笑い、バーナビーは小さな猫を両手で抱え上げた。
「この子です」
「おお、やっぱキジトラか」
バーナビーから、両手でその子猫を受け取った虎徹は、猫を目の位置にまで上げてよく見詰める。
「生まれてどのくらいだろ」
「わかりません、猫に関しての知識は皆無ですから」
「俺も詳しくはねぇからな…」
虎徹は唸るような声を出してから、視線を猫からバーナビーにずらす。
「なぁ、バニーちゃんが飼っちゃえば?」
「…っえ」
虎徹は、猫をバーナビーの手に戻してから、その小さな頭を撫でる。
その虎徹の顔は、なんだか子供を可愛がる父親のようなものだった。
「お前にちゃんと懐いてんじゃん。飼っちゃえよ、色々協力するし」
「……うう…」
呻るように首を傾げて、バーナビーは猫を抱きかかえ直そうと腕を動かした。すると、そのときずっと大人しく腕の中にいた猫が、とんと床に降りた。
別になんてことのない動きだったのだが、突然動いたので驚いたバーナビーがつい声を出した。
「あ、虎徹さんっ」
つい滑らせたその言葉を、虎徹が聞き逃すはずもなく。
「…え?」
「え…あ、っ…!」
慌てて口を塞いでも、もうどうにもならなかった。
「今、虎徹って」
「……、…この、猫の…名前です」
自分の顔が真っ赤なことを、バーナビーは感じた。
恥ずかしい。恥ずかしさで死にそうだ。
しかし、虎徹はバーナビーの予想を変な方向に上回ることを口にした。
「…俺も先週猫拾ってさ、バニーっていうんだ」
「…え」
「なんか恥ずかしくって隠してたんだけど…そっかー、お前もかー!」
盛大にニヤけた虎徹の顔に、バーナビーはさらに顔を赤く染めた。
「つ、付ける名前が思いつかなかったから、仕方なく…っ」
「うんうん、わかったわかった」
「なにニヤけてるんですか!」
「ニヤけてねーよ!」
突如始まった、飼い主とその相棒の幸せそうな痴話喧嘩に、猫はにゃーと一鳴きしてから丸くなった。