ベッドに寝かせようとしてもそこで寝るのは嫌らしく、結局子猫が眠った場所はスクリーンの前の椅子の上だ。

そしてその猫は利口なのか偶然なのか、翌朝低血圧のバーナビーのベッドに来てバーナビーを起こした。
起こしたと言っても、寝ているバーナビーの身体の上をぺたぺたと歩き回っただけだが。

バーナビーがベッドの上に上半身を起こし、猫を両手で抱き上げる。

「…おはようございます」

朝に弱いバーナビーも猫の質量と不規則な歩き回り方にはさすがに目が覚めた。
そのまま片腕に子猫を抱えたままキッチンに向かい、リビングで子猫を放す。

猫は慣れたような足取りで先程までベッドにしていただろう椅子に飛び乗る。
牛乳パックと浅い皿を猫の方に持っていくと、猫は急かすように「にゃー」と鳴いた。

「猫さん、どのくらい飲みます?」

バーナビーは適当に皿に牛乳をあけて、そのまま猫が牛乳を舌で舐める様を見ていた。
自分は朝食を摂らない主義のバーナビーは、仕事がオフである今日は時間に余裕があった。

いつまでも「猫さん」ではおかしいかもしれない。名前をつけるべきだろうか。
でもなんて名前を付けたら良いのかわからない。

しばらく考えていると、猫は皿から遠ざかり椅子の上で丸くなった。瞼は眠たそうに閉じかかっている。
皿の中にはまだ牛乳が残っている。随分な気分屋だ。

気まぐれで、気分屋で。
――どこか相棒と似ていた。

「…虎徹さん」

猫の種類は確かトラネコだ。虎徹という名前は丁度良いかもしれない。

――虎徹さんにしよう。

「あなたの名前は虎徹さんだ、…良いですか?」

半分眠ってしまっている状態の子猫の顎を指で撫でると、喉がごろごろと鳴ったのがわかった。

可愛い、と思ってしまったら終わりだ。手放したくなくなってしまう。
どうしても、このまま飼いたくなってしまう。

そんなのは駄目だ。
動物は、ペットの飼育経験の無い人間に飼われてもきっと幸せにはなれない。
誰かに引き取ってもらわないと。





結果は、駄目だった。

ヒーロー仲間に電話であたってみたものの、誰ひとりとして引き取ってくれる人はいなかった。自分で拾ってきてしまった以上、無理強いは出来ないから仕方ない。
飼いたそうな人はいたが、ホァンは自分の家では無いから飼えないし、イワンは部屋が畳だから無理だし、キースにはもう犬がいた。

どうしよう。
飼うことは出来ないが、だからと言って捨てるなんてことも出来ない。捨てたり、施設に引き取ってもらうには情が湧きすぎた。

「虎徹さん、どうしましょうか」

椅子の上で眠る猫に、バーナビーは問い掛ける。
朝から猫は眠ってしまっている。猫は夜行性なのかもしれない。

バーナビーがそんなことを考えていると、手に持っていた携帯電話が鳴る。ディスプレイには虎徹の名前があった。

「もしもし、先輩?」
『あぁ、バニー?』

電話口からは虎徹の声が聞こえる。

『今日お前もオフだろ?』
「はい」
『良い酒貰ったんだけど持っていっていいか?ついでにお前の言ってた猫も見たいし』
「あ、はい、どうぞ」
『じゃあ夜に…あっバニー!』

会話も終わりかけ、通話を切ろうとしたとき、急に虎徹が慌てたように声を出す。

「なんですか?」
『あっ…いや、こっちの話!じゃあまた夜にな』

"バニー"と呼んだにも関わらず、こっちの話だと言って一方的に通話を終了させた虎徹に、バーナビーは小首を傾げつつも携帯電話を閉じる。

(先輩が来たら、猫さんを虎徹さんって呼ばないようにしないと)




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