『あぁ、そりゃー虎猫ってやつだな』
「トラネコ?」

先程連れ帰ってきた捨て猫を風呂場に追い詰めながら、バーナビーは携帯電話で虎徹と話していた。
風呂が嫌いらしいその猫を風呂に連れて行ったら、猫がその場から逃げ出すようにリビングへと走っていってしまったのだ。今バーナビーがじわじわと猫を部屋のすみに追いやりながら、やっと風呂場の中に追い詰めたところだった。

『そう。茶色っぽくて縞模様なんだろ?虎猫だな』
「トラって、タイガーですか?」
『ああ、そうだな。タイガーだ』

キジトラとか言ったっけな、正しい名前はわかんねーけど。と虎徹は言う。
バーナビーが風呂場を締め切り髪をまとめる。臨戦体勢だ。
携帯電話を耳と肩で挟んで通話を続けながら、バーナビーはシャワーを片手に取ってお湯を出す。

『で、急に猫の話なんてどうした?』
「あー…あの、うっかり猫を拾ってしまって」
『お前が?猫を?』

電話口から虎徹がぷふっと吹き出すのが聞こえた。
バーナビーはお湯を出し続けるシャワーをセットし、両手で猫の毛をわしゃわしゃと洗う。

「笑わないで下さい、必死なんですから」
『ごめんごめん…でもお前動物とか触ったことあんの?』
「ないです、飼ったことはもちろんですけど、触ったのもさっきが初めてです」

もう既に全身をお湯で洗われたにも関わらずまだ逃げようとする猫に苦笑しながら、バーナビーは電話口の虎徹に問いかける。

「先輩飼ってくれません?」
『え、俺が!?』
「お願いします、僕ペットとか飼った経験ありませんから…」

バーナビーがそう言うと、虎徹は困ったような声で返答する。

『うちじゃ、ちょっと飼えねーな…』
「そうですか…」

ごめんなぁ、と虎徹の申し訳なさそうな声が聞こえた。
別に先輩が謝ることじゃないのに。そう思いながらも上手く言えなくて、バーナビーは「いえ」と当たり障りの無い返事をした。

「とりあえず一晩置いてから考えます。夜中に失礼しました」
『いや、大丈夫。まだもうちょい起きてるから困ったら電話してこいよ』
「はい」

そこで通話を終了させ、バーナビーはシャワーを止める。
猫がぷるぷると身震いさせると水滴があたりに飛散して、バーナビーの身体を濡らした。

「何するんですか、服が濡れたでしょう」

そんなバーナビーの柔らかい文句など通じるはずもなく、猫はそのままシャワールームから出て行こうと歩き出した。

「あ、ダメですよ身体拭かないと!」

バーナビーが急いで用意してあったタオルで猫の身体をぽんぽんと拭く。
時折にゃーと泣き声を出すのが可愛かった。

決して大きくはないタオルにすっぽりと収まってしまうくらい小さな身体を拭きながら、バーナビーは考える。

猫相手に、とは自分でも思うが、先ほどあったばかりの者相手になんて呼べばいいのか。「猫」と言うのはなんだか申し訳ないような気がしてしまう。

「猫…さん。猫さんでいいですか?」

にゃーという鳴き声を肯定と受け取り、バーナビーは乾かした手の中の猫を自分の目の位置まで抱き上げる。

小さい。こんな小さな身体で生きているのか。
産まれてどれくらいなんだろう。
こんなに小さいのに捨てられ、周りに頼れる人もいなくて、ずぶ濡れになっても強く生きている。
手の中の温かみが愛おしく感じた。

バーナビーはふと気が付いた。
この猫は長いこと何も食べてないかもしれない。
こんな小さい猫でも、ミルクくらいは飲めるだろうか。

猫を部屋に放し、バーナビーはキッチンで浅い皿にミルクを入れる。
零さないように気をつけてリビングに戻りながら、リビングについてからミルクを入れれば楽だったかもしれないと少し後悔する。

「猫さん、ミルクいかがです?」

皿を適当な位置に置くと、子猫がバーナビーの方に歩いてくる。警戒もせず一心にミルクを飲む子猫の身体を片手で撫でる。自然と頬が綻んだ。

――どうしよう。
ペットを飼った経験のない自分が飼うなんて無謀だ。
明日ヒーロー仲間達にあたってみようか。誰かしら引き取ってくれるかもしれない。
それよりも今日はどこに寝かせよう。猫をベッドに入れるのもなんだか変だ。

――ああ、問題は山積みだ。




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