別に拾うつもりも、拾ってやる義理も無かった。
仕事で疲労しきった身体に喝を入れて道を歩く。
今にも眠ってしまいそうなくらいにだるい身体で車を運転するわけにもいかず、バーナビーは降りしきる雨の中を一人で家に向かって歩いていた。
ウロボロスの情報を集める必要も無くなった今、別に急いで帰りたいとも思わない。
バーナビーは黒い傘を差し、帰路を歩いた。
深夜になろうとしているこの時間帯はさすがに人通りが少なく、車もたまに通る程度だ。夏と言えどさすがに肌寒く、バーナビーは小さくため息を吐いた。
ふと、微かに聞こえた声にバーナビーが足を止める。
(なんだろう?)
小さな子供の声かとも思ったが、どうやら違うらしい。
路地裏の方から聞こえてくるその声の方向に歩く。路地に入るにあたって傘を閉じると雨が微妙に身体を濡らしてきて気分が悪い。
少し奥に入ったところで、声の主は姿を現した。
「…猫?」
そこにいたのは、暗くてよく見えないが、猫のようだった。
弱弱しく鳴いているその声が頼りなくて、バーナビーはその場に屈みこむ。
「こんなところで、何をしてるんですか?」
ざあざあと降り続ける雨に打たれながら、バーナビーがその猫を両手で抱き上げる。
そういえば、動物を触ったのは初めてかもしれない。いまさらながらにそれを思った。
「寒くありませんか?こんなところにいて」
そう聞くと、にゃーと猫が答える。話が通じてるのかな、とバーナビーは笑った。
「あなたの飼い主はどこにいらっしゃるんです?帰らないと風邪を引いてしまいますよ」
とりあえず傘を差したかったので猫を抱き抱えたまま一旦路地裏を出る。
通りに出てから傘を広げ、街灯に照らされてやっと気が付いた。
腕の中の猫が、首輪をしていないことに。
――あなたも孤児なんですか?
僕、小さい時はずっと孤児院にいたんですよ。
マーベリックさんに引き取られて、そのまま孤児院に入れられて。
猫を抱き抱えながら、心の中で独白する。すると、なんだかこの猫が他人とは思えなくなってしまった。
バーナビーは、迂闊だったと痛感しながらも、もう引き返せないと悟った。
「…あなた、うちに来ます?飼ってあげることは出来ませんけど、とりあえずうちで雨を凌ぎましょう」
バーナビーはひとまず猫を連れて帰ることにした。
腕の中の弱々しい小さな温もりがなんだか頼りなくて、バーナビーは雨の中を小走りで進んだ。