―火は苦手なんです。
と、彼は言った。

「なんでだよ?まぁ確かに触ると熱いから危険ではあるけど」

ライターを片手に持つ虎徹は、地面にしゃがみ込んだ体勢のまま、少し離れた所に立つバーナビーの方を見る。
虎徹は、先程からなかなか火のつかないライターをカチカチと弄っていた。

「もっと近く来いよ」

静かに促すと、バーナビーは意外にも素直に歩み寄って来た。

冬に比べて、長居するようになった太陽も既に暮れている。
暑くも寒くもない気温の中、2人は人のいない、ビルとビルの隙間にある暗い公園にいた。

「お、火ついたぞ。バニー、そこの袋開けて一本出してくれ」
「…コレですか?」

バーナビーは、虎徹が座っている場所のすぐ近くに無造作に置いてあった袋を拾い上げる。

「それそれ」

肯定を受けたバーナビーは、言われた通りに中から一本、先端だけ色が違う濃いピンク色の細い棒を取り出した。

「火つけるぞ、ちゃんと持ってろよ」

虎徹が、バーナビーの持つ棒の先端に、火のついたライターを当てた。
すると。

「……っ」

パチパチ、と小気味良い音を発しながら、棒は先端から火花を爆ぜさせ始めた。

「……これは…」
「線香花火、って言ってよ…日本の夏の風物詩っつーか…そんなもんだ」

言いながら、自分の花火にも火をつけた虎徹が、バーナビーの方に身体を向ける。

「綺麗だろ?」

バーナビーは、無心で線香花火に見入っていた。
正面から火花越しに見るその顔はいつもより幼く、歳相応のそれに見えた。

「…あ、」

ポトン、と光を落として、花火が静かになる。その後を追うように、虎徹の花火も闇に消えた。

どこか寂しそうなバーナビーの顔に、虎徹は柔らかく笑う。

「ほい、花火はまだまだたくさんあるぜー?」

大量に花火が入った袋を差し出されたバーナビーは、常に無く素直に一本受け取る。

「…ありがとうございます」
「ん」


相棒ながら情けない事に事情は全く知らないが、火に対して相当なトラウマがあるらしいバーナビーに、火を克服しろとは言わない。
それでも、過去のトラウマに対して、少しでも恐怖心が和らげられたなら。



僅かな静寂の後、公園には再び花の弾ける音が響いた。


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