ふと、気になったのだった。
何気なく思い出しただけの事だったが、一旦気になるともう何も手に着かないほどにそれは虎徹の心を掻き乱した。

なんて事はない話だ。
ただ単に虎徹は、先の誕生日にプレゼントした、ウサギの縫いぐるみの行方が気になっていた。

あの後、半ば無理矢理バーナビーに縫いぐるみを手渡し、持ち帰らせた所までは明確だった。が、それ以降を確かめる事は無かったし、何より確かめる術を持っていなかった。

あの冷徹なバーナビーの事だ。どうせ何処かに無造作に置かれているのがオチだろう。
有意義に使っていたとして、精々クッション代わりにでもしているであろう、と想定していた。

そんな迷宮入りの、他愛がないが気になるそれを確かめるチャンスが出来た。
否、虎徹は仕組み、チャンスを作り出したのだった。



「オジサン、その書類、今日中に僕も目を通さないといけないんですけど」

真面目にデスクワークなど滅多にしない虎徹は、いつものように書類を溜めていた。
しかし、これは計画通り。

「あぁ、悪い悪い…、なるべく早く片付けて、お前ん家持ってくわ」
「家に直接、ですか?…そんなわざわざ…」
「そんな遠くねーし、待たせるにはちょっと遅くなりそうだからな」
「…わかりました、じゃあお先に失礼します」

虎徹は、そんなに残っていない書類を、さもまだまだたくさん残っているかのように、バーナビーを帰らせた。
書類を家に持っていく、なんて、ただ家に入るための口実に過ぎなかった。




数分経って、もう既に終わっている書類を手に、虎徹はバーナビーの家に向かった。
時差はそんなに無かったが、バーナビーの姿は見当たらなかった。まっすぐ帰宅しているのだろう。

しばらく歩き、バーナビーの家に着く。何気なくドアノブを回すと、ガチャリ、と音をたててドアが開く。

無用心な、と思いつつも虎徹は静かに部屋に入る。
中は、想像していた以上に閑散としていて、家具らしい家具がほとんど無い。
虎徹は部屋の中を見回し、視線で部屋を物色ながらウサギを探した。
目的はそれだった。が、いくら探しても縫いぐるみは見つからない。

捨てたか、という考えが頭を過ぎる。
皆でプレゼントした品なのに、と少し不満になりながら、虎徹は気付く。

――バニーは何処だ?

帰宅早々、シャワーを浴びているのかも知れない、とシャワールームに行くも姿は無い。

だったら何処に、と思案し、思い立ってベッドルームを探す。書類が沢山残っていると言ったのだ、自分が来る前に一眠り、と考えるかも知れない。

勘で此処だ、と感じた部屋のドアを開けると、そこにはベッドに横になるバーナビーの姿があった。

音を立てないように細心の注意を払いながらベッドに近寄ると、そこには意外な光景が広がっていた。

布団の中に半ば隠れていたせいで一人分以上のシルエットになっていたが、バーナビーは件の縫いぐるみを両手で抱きしめて寝ていた。
その枕に押しつけた顔は、普段からは全く想像も出来ない程に無警戒なあどけないものだった。
その子供のような顔を見た虎徹はその縫いぐるみの用途を理解した。

(抱き枕、か……)

ぎゅ、と両腕で強く抱いて一緒に布団に入って横様に熟睡。
もし今起きて、自分がこの光景を見ている事がバレたら、その瞬間に照れ隠しに縫いぐるみを投げつけても来るだろうと、微笑しながら虎徹はそのピンク色のウサギを指先でつついた。

枕元の小椅子に腰掛け、虎徹はしばらくバーナビーの寝顔を鑑賞する事にした。


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