夢が崩れる瞬間というのは、ひどく呆気ないものだった。極彩色の世界にぱり、と皴が入る。薄くはられた硝子が音を立てて割れた。

「もうくるな、」

綺麗な薄い唇が一言一言を区切る様にゆっくりと開く。残酷に告げられた言葉は家康に深く響いた。ありふれた例えをするなら、崖から突き落とされたような感覚。ふらり、と重力を失ったように精神世界の躯が揺れる。足元から全ての物質が消失した、そんな錯覚に囚われた。落ちていく、深く深くそのさらに奥に。

予感はしていた。決別することを決めた日から、この結末は読めていた。三成はそれを感じとったのだろうか。それでも傍観していたのは自分だ。否、高をくくっていたのだ。自分が何をしても三成だけには嫌われないと思っていた。それが間違いだったと気が付くのが今に為ってだなんて。あまりに呆気無い結末。永遠とは言わないまでもそれに近しいと信じていた関係にしては、ひどく物哀しい。声をともなわないで、口が開く。渇いた唇の端がぱり、と音を立てた。

「そうか、」

やっと絞りだした声は震えてはいなかった。視界の端、三成のうしろでまるで首をもがれた人の様に、椿の花が床へと落ちた。真っ赤なそれはまるで己を嘲笑うかの様に見えて、家康は薄く瞳をつぶった。


逆さの面
(逃げられるなら、逃げたかった









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