お前は、志摩の一族であるのだから。お前の命は何の為にある、誰の為に在る。そう、物心ついた頃から頭の中にも反芻される声がある。それは時には父親のものであったし、数多いる兄姉のものでもあった。或いは、自分の声でもあった。

森の奥で、土埃が上がる。あれは、奥村君か。馬鹿なことをしたものだ、と思う。杜山さんが友人だか思い人だか知らないが所詮は他人、放って置けばいいものを。自分の様に、逃れられない理由でも無いのなら、捨てておけば良いものを。

「坊、」

「離せや、志摩」

坊を此所で行かせる訳にはいかなかった。奥村君には悪いけれど、俺の中の優先事項は彼では無い。友情も大切にしたいとは思うけれど、俺は、俺である前に志摩であるのだ。大事な坊に傷の一つでも負わせてはいけない。常の如く、友人とのじゃれあいの内ならば好きにすればいいけれど、生死に関わることならばそうはいかない。まして。

(地の王、なんて)

化物も良いところではないか。先生でさえ、結界を張るのが精一杯の八候王を、倒せる訳が無いだろう。自分の実力を顧みてみるが良い。

「離せや、」

ぱちん、と手が振り払われた。驚いた俺が次の行動に入る前に彼は、結界を越えて仕舞っていた。

(ああ、)

越えて仕舞っては仕方が無い。志摩として、己も坊の後を追わなくては。役に立たなくても、盾位にはなるだろう。そう思い乍踏み越えた白線は、酷く軽い気がした。











痛みさえ失う