一番隊舎からの帰り道、幾重にも重なった高廊の中程に見覚えのある金色を見つけた。この広い瀞霊廷に於いて偶然意中の人に出会す何てことはそうそうある事では無い。その喜びに突き動かされ、駆けようとする。が、しかしその彼女の横には既に先客がいた。半歩踏み出した脚がぎゅ、と止まる。彼女の横に居るのは、九番の副隊長だった。程好く鍛え上げられた両の腕を惜し気も無く晒す彼は彼女、乱菊と楽しそうに談笑していた。同じ立場の者が十一人しか居ないと為ればどうしても話は弾むのだろう。釈然とした嫉妬にも似た物を感じつつも、邪魔をするのは悪い様な気がして踵を返そうとした時、乱菊が突然に此方を向いた。背中に目でも付いているのか、と思う程に。そうして、その灰色の眸で僕の姿を視認すると69の刺青を無視して此方へと駆け寄って来た。

「こんな所で何してるの?」

「一番さんに書類届けに。別にさぼっとる訳ちゃうで、」

疑わし気に僕を見る乱菊に一言付け足して、ちら、と彼女の背後の九番副隊長を見遣った。完全に置いてきぼりを喰らった彼の表情は面白い程に呆けている。乱菊と仲良く話していた姿を思い出し好い気味だとは思うけれど、些か可哀想な気もしなくは無い。

「乱菊、あれはええの?」

「ああ、修兵?良いのよ、話は終わってたもの」

「さよか、」


乱菊が良いのなら、僕の方にも九番副隊長に対する思い入れなど欠片も無いわけで。どうせならばこの後彼女とさぼって仕舞おうと、乱菊の肩に手をかけた瞬間。ぞくり、と肌を撫ぜる様な感触。嫌な視線を感じて乱菊の肩越しに向こうを見遣れば、隣の建物の高廊に藍染が居た。白く汚れの無い羽織りを風に遊ばせて此方を見下ろしている。硝子越しの鳶色は何の感情も読ませない侭に此方を見据えていた。偽善を被る事を止めた藍染の視線は酷く冷たい。自身にしか解らぬ様に器用に上げられた霊力の圧が躯にのし掛かる。ぎちり、と全身が軋む。藍染の唇が、にい、と歪んだ。あれは到底人格者のする表情では無い。

(乱菊、)

どうか後ろを振り向かないで欲しいと思う。いつか藍染が自身の副隊長について語っていた事を思い出し、背筋がぞくり、と冷えた。

(女なんて生き物は、本当に不快だよ)

曰、その姦しさが嫌なんだそうだ。触れれば壊れて仕舞いそうな華奢さも吐き気がするらしい。

(ああ、そうだギン。君の幼馴染みの松本君、私はあの女も嫌いだ)

それも私の最も嫌いな部類だよ、と藍染は宣った。其を念頭に於いてもう一度藍染を見た。やはり鳶色の眸は冷えきった侭に此方を見ている。 今にも彼の指先が此方へ向けられて、彼女を傷つけるのでは無いか、と実体はなく、けれども十二分に在りそうな想像に堪らなくなった。後で藍染に何をされても構うものか。今この場所で乱菊があの男の視界にいる事の方が恐ろしい。

彼女の肩にかけた侭だった手に力を込めて、自分の方へと抱き寄せた。鼻腔を微かに擽る花と日溜まりの匂い。

「ちょ、ギン?」

「…ええから、」

突然の事に焦る乱菊を有無を言わせずに黙らせて、その侭瞬歩で場を後にした。自分の視界から、藍染が消える瞬間のあの男の眸は白けきった様に細められていた。その事は酷く恐ろしかったけれど、今は。今は唯、この腕に抱きしめた温もりを感受していたかった。




あっきい様。
遅くなって仕舞ってごめんなさい。
ラブラブなギン乱に嫉妬する藍染さんで、それに本気で心配するギン、との事でしたが…。
かなり別のものになってしまった感がどうしても否めません。

こんなんじゃねえよ、と言うことでしたらメールか拍手にてお知らせください。

それでは。



















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