ぽきり、と包帯にまみれた指先で白い百合を手折った。茎の中を伝っていた水が己の手を濡らす。鮮烈な月光を受けて百合自身が内側から輝いているように見えた。

「主も逝ってしもうたか」

なあ、三成よ。声に出して囁いても、返事等ある訳もない。痛い程の静寂が耳を突く。風も無く、茹だるような熱気を孕んだ夜が眼前に広がるばかり。時が動くことを忘れて終ったかの様に、星々が瞬くことを知らないかの様にただただ其所には夜がある。素知らぬ顔をして、己の首を絞めている。ぽろり、と掌から百合の花が転がり落ちた。真っ暗な大地に、一点の白が転がる。何故だろう、今し方掌から離れた其が酷く汚らわしいものの様に思えた。じり、と草履の底で踏み拉く。ぷつりと言う軽い、何かが潰れる感触が直に伝わった。白い花弁は土の色と交ざって終ったのだろうか、もう目を凝らしても全てが真っ暗だった。

「三成よ。主の美しさは何にも例えられぬ」

そうよ、百合ごときには例えられもせぬ。そう胸の内で呟いた。あれは触れただけで簡単に手折れる様な儚いものでは無ければ踏み付けただけでそうとも知れない闇に埋もれて終う様な薄っぺらいものでも無かった。陳腐に例えるのならば、突き刺さるような月光り。人の手では触れられもせず、決して足元に来ることも無い玉輪。願わくば、その声で己の名をもう一度呼んではくれないだろうか。もう一度、己を見てはくれないだろうか。見上げた先の三日月は酷く明るく、疾うに枯れて終った筈の眼から泪が溢れた。


(愛してるとは烏滸がましいだろうか)





友人の御神楽はじめさんに捧げます。
死ねたで良いって、言ったよね。ね。










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