大きく開かれた窓からは、この場に不似合いな爽やかな初夏の風が入って来る。 どこかで薔薇が咲いているのか、ほのかに甘い芳香が混じる。 「ご覧。美しい夜だ。」 だがボクはそれどころではない。 媚びを含んだ淫蕩な接吻に始まり、首筋、胸元と這わせたボクの唇は、藍染様自身にご奉仕中だ。 目覚めた悦びに溺れる猿か、命惜しさに隷属する犬か、やつがボクをどう思っているかは、満足そうに細められた、その目からは読み取れない。 「衆道は選ばれた者の楽しみだ。道を極めんとすれば、女は障害物でしかない。」 足元にうずくまるボクの頭をなでる。逆らえばそのまま首をへし折る手。 「堕落を疎えば、このような形になる。」 同意を求めて見下ろす視線を、恥じらう振りをしてかわす。 抱き上げられ、向かい合わせに膝の上に乗せられる。 「ギン…お前は美しいままでいてくれるね?」 はだけられた胸、心臓の上に手を置いて聞いてくる。 嫌なやつだ。 決まった答えをわざわざ言わせる。 ボクは笑顔を作って、やつの期待通りに行為を続ける。 (ボクはこんなにもあなたに支配されています) ひたすらそういう振りをする。 触れられれば反応するし、声も出るが、相変わらず好きにはなれない。面倒臭い。 やつの名前を呼ぶ声と、ボクの作った甘い嬌声の二重奏は唐突に終わる。 見ればボクの胸元には無数の跡。 「薔薇の花びらのようだね。」 とやつは嬉しそうだが、ボクは修練の時に困るな、と考えていた。 「どうだった?ギン。」 くだらない。それでもボクは笑顔で答える 「…良かったです。」 こんな目にあうのがボクの方で、良かった 彼女じゃなくて本当に良かった。 お茶様よりいただきました。 |