ふと、高廊から見下ろした先に何人かの死神に囲まれた乱菊を見つけた。赤や黄色や黒の髪の、副隊長達だった。未だ日の高い内から飲みにいく話でもしているのだろうか。

(イヅルに、五、六、九番副隊長さんもおる)

良く見ようとしてか、それとも別の思いからかギンはその細い双眸を更に細めた。少し、ほんの少しだけ彼らが羨ましかった。彼女に笑いかけて貰えている人たちが。彼女に笑いかけることが出来る人たちが。乱菊に、思いを伝えることが出来る人が。

(全部、僕には無理な事や)

僕は乱菊に話しかけることも思いを伝えることも出来やしない。全部全部、この掌から態と零して仕舞った。あの雪の日に、思いを決めた筈なのに、胸の奥が腐れた様に疼く。乾き切ら無い倦んだ傷口みたいにじくりじくり、じくりじくりと心ノ臓を蝕み続けていた。まるでこの高みから彼女を見下ろす距離が、自分のこれからを暗示している様に思えて、無意識に唇を噛んだ。太陽が天にあるこの時間帯ならば、上から下は見えても、下からは眩しくて見えない。気付かれることも無いだろう、とギンは暫く其処に佇んでいた。

「あ、」

話が終わったのか、眼下の副隊長達がばらばらと散って行く。そして、太陽の様な金色だけがその場に残ったのが見えた。一瞬の逡巡。その後、ギンはとん、と朱塗りの欄干を蹴って下方へと跳んだ。風が、空気の圧が耳の奥でびゅうびゅう鳴る。大気の底が近い。乱菊の太陽の様な金色が眼前に迫る。少しの衝撃と供に、地に両足がつく。一拍遅れて羽織りがふわり、と空気を孕んで大きく揺れた。

「ぎん、」

白石の地面に突如降り立った白い影に、乱菊は驚いた様だった。空色のその瞳が大きく見張かれ、半ば反射の様に肉厚の唇が開かれる。ギンはその反応に満足気に口許を歪めた。

「そない驚かんでもええやないの、」

「普通驚くわよ、」

未だ動機が治まらないのか、死覇装から大胆に露出した豊満な胸の丁度心ノ臓の上に右手を置いて、乱菊がふてた様に言った。驚いたからか何なのか、乱菊の口調からは完全に上官に対するものは消えていた。乱菊が普段人に接する時の様な喋り方に先、飽きもせずに見詰めていた時のあの感情がちり、と刺激された。一度疼き始めた熱病は止まらない。あ、と言う間も無く胸の内側を焼いて仕舞った。

「何、変な顔してんのよ」

いきなり眼前の金色に、指先で額を突かれた。綺麗に手入れされた爪が薄い皮膚をに擦って、地味に痛かった。

「なにすんの、乱菊」

指の先で突かれた眉間をそっと撫でれば、僅かに水分が付着した気がした。血が出て仕舞ったのかも知れない。

「変な顔って、なんやの」

「変な顔は変な顔よ。ただでさえ狐面みたいな顔してんだから、」

「……何気に非道うない?」

滔々と語られる言葉に何故だろう、血を流している額よりも心の方が痛む気がした。

「事実よ、じじつ」

と、腰に手を当て言って除ける乱菊に、元気そうだなと安堵する。そして、あの頃の侭の口調に、焼け爛れていた筈の胸の奥が何時の間にか癒えているのに気が付いた。なんと無く、迷い子が家を見つけた様な、そんな心境に似ている様な気がする。勿論迷子になんて為った事は無かったけれど。

「非道いわぁ、」

そう困った様に頭を掻き乍ら呟いた僕に、乱菊は太陽を背にしてきらきらと明るく笑った。



(いつか君の元に帰る日まで)







ユキ様リクエストの作品です。

遅く為ってしまい、本当にごめんなさい。

幸せなギン乱になってるでしょうか…?
為ってない気がします。すみません。
何と言いますか、藍染様が生きている限りギンはごちゃごちゃ悩み続けてる気がします。
乱菊vvってしたいのに、なんか引っ掻かって出来ない、みたいな。
要約すると拙宅のギンはヘタレなのです。
格好良いギンを書いてみたいものです。

テスト…?
撃沈致しました。はい。

こんなものですみません。
もっと甘いのが良いとか、こんなん無いわー、と言うことでしたら、
いつでも返品受付なう、です。















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