「ごめんな、乱菊」

泣かさん、って誓ったのになあ、とギンは困ったように笑って乱菊を抱き寄せる。左腕だけで己を抱きしめるその感触に酷く胸が痛んだ。あの戦いで引き千切られた右腕は織姫の力を以てしても治ら無かったし、ギン自身も元に戻すことを望まなかった。縦しんば元に戻せたとしても、護廷ひいては四十六室は許しはしないだろう。利き腕の喪失はギンが既に反乱等出来はしないと言う事を言外に示していた。未だに市丸を許すな、という声は強いが護廷も一度に三つも隊長職が空いては堪らないとギンは元の地位へと押し戻された。


「ギンの、馬鹿」

あんたさえいてくれれば良かったのに。口の中で呟く。百年以上も私のこと放っておいて、揚句得たものは右腕の喪失だけだなんて。馬鹿、馬鹿ギン。他にも言いたいことは山ほどあるのに、全然言葉に為ってくれ無い。それしか言葉を知らぬかの様に、惟々、馬鹿と繰り返した。ギンは黙ってその台詞を感受し、幼子にするように乱菊の背をぽんぽんと叩く。

「ごめんな、乱菊」

ギンの優しい声が耳元で囁く。何かを含んだ訳でも、何かを示唆する訳でも無い惟純粋に優しい声音。回された左腕に、ぎゅ、と力が込められた。何処にも行かせない、と示すようなその態度に思わず涙が零れる。

「これからは、ずっとずっと一緒や」

ええやろ、とこの男にしては珍しく懇願するような言葉に乱菊は小さく頷いた。そうだ。百年以上も前から欲しかったのはこの言葉だった。魂の一部なんて無くても構わないから、一緒にいて欲しかった。全部が終わって仕舞ってからしかその言葉を口にできないなんて、本当。

「馬鹿ギン」

涙は依然として止まりはしなかったが、その顔に飛び切りの笑みを湛えて乱菊はギンの拘束を少し弱めると、その薄い唇に口付ける。驚いた様に見開かれたギンの瞳に自分がちゃんと映り込んでいるのを確認して、乱菊は満足気に笑った。


(彼女の目にはもう涙は無い)






555番を踏まれた方へ。

いかがでしたでしょうか。
ギン乱的ハッピーエンドということで頑張ってはみたのですが…。
こんなのじゃねぇよ、と言うことでしたら何時でも返品は受付ております。














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