優しい人も尊敬できる人も一緒にいて楽しい人も、たくさんいるのに、
なんでただ一人、
この人じゃなきゃいけないんだろう。

溢れ咲く雪柳
軽く繋がれた手
彼女のこめかみに触れる彼の唇
名残惜しげに離れる指先
振り返って手を振る彼
見送る彼女

「見たか?」

「見た。」

恋次とルキアは偶然見かけた光景に溜め息をついた。

「乱菊さんと、市丸とは驚いたぜ。」

「キ…キッスしてたぞ。」

二人の様子は、片思い中の恋次を切なくさせた。あんな風にお互い見つめ合えたら、他にはもう何も要らないんじゃないか?
実際、恋次はあんな女っぽい乱菊を見るのは初めてだった。瀞霊廷一の美女で、色っぽさでは定評があることは十分承知しているが、中身が男前なせいか、女として見えた事はあまりない。
だが、今日の乱菊は違った。市丸の唇を受けてはにかむ表情。別れ際の少し寂しそうな微笑。恋次をドキッとさせるには十分だった。
市丸にしてもそうだ。彼を忌み嫌うルキアが「別人じゃないのか?」という位、雰囲気が違った。いつもの勘に障る笑い顔ではない。乱菊を見る表情は優しくて、端からも彼がどんなに乱菊を愛おしく大切に思っているのかわかった。

「なぜだ?」

ルキアが小さな声で不満気に言う。

「なぜ、松本副隊長とあの男なのだ?」

乱菊は男のみならず、女性隊士にも憧れの存在として人気があった。ルキアも例外ではない。
そしてルキアは市丸を毛嫌いしている。
その二人が好き合っているとなれば、不満は最もだった。

「よくわかんねーけどよ。鍵を持ってんじゃねぇか?」

「鍵?」

ルキアは怪訝な顔で恋次を見る。

「いや、これは隊長の受け売りなんだけどよ。男と女って鍵みたいなもんで、自分の扉を開けられる鍵は一本だけ。運命の相手が持つ鍵以外では開けられないらしい。」

「兄様にとってはそれが緋真様だったのだな。」

「そして、市丸にとっては乱菊さんなんだよ。誰か好きになるのって理屈じゃねぇと思うぜ。」

「私にはよくわからん。」

「俺だってわかんねーよ。」

乱菊さんだけが本当の市丸を知る事ができる。それがどんなものかは他の人にはわからない。
ただ、あの二人にとってお互いが特別で、一緒に居られれば幸せな気持ちになれる存在だという事だけはわかる。

「やっぱり運命の恋ってあるんだな。」

たった一本の鍵
それが開けた扉の先には、温かい光が満ちているに違いない。





お茶様より頂きました。
とても素敵すぎて、死んでしまいそうです。














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