動くなよ。
いつものように無感情な声で。痛む左足でその小言から逃げるように立ち上がった僕。瞬間。石に足を取られて。何かを思う前に。視界が暗転。感じたのはひんやりとした、雪の感触と。背中に鈍い、痛み。ああ、格好悪いな、僕。苦々しく思いながら背中に走った痛みをやり過ごした。

「ほら。」

アイクが側に寄ってきて。僕の前に右手を差し出す。文句を言おうと口を開きかけて。足に走った激痛に奥歯をかみしめた。

「何をすっ・・」

る、と言い終わらないうちに。躯がひょいと浮かんだ。否。持ち上げられた。そして、そのままお姫さまだっこ。同じ男なのに、軽々と持ち上げられて。その上。身長差のせいか。アイクの胸に顔を埋めるカタチになって。
正直。ムカツク。でも。

「・・大丈夫か・・?」

なんて。聞こえるか聞こえないか位の声で。小さく囁く君は好き。

「大丈夫なわけないでしょ。ちゃんと、運んでよね。
そもそも、転ぶ前に、手を貸すのが礼儀でしょ。」

我が儘言う僕に。君はいつもの無表情。そして。
苦笑。

「そうだな・・。

今度からは気をつけるよ、王子様。」


「っ馬鹿。」

照れ隠しにそう言った。そして。アイクは僕の唇に、唇を重ねた。軽く触れるだけの甘い、甘いキス。

「たまにはこんなのも悪くないな。」



ほら、お手を
(ああ、もう照れる)
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