将軍青峰と巫女さんさつきちゃんのパラレル





(ゆびきりげんまん)

(うそついたら)

(はりせんぼんのーます)

(ゆびきった!)



小指と小指を絡めて呪縛を紡ぐ。 子供の頃の遊びだ、と言われてしまえば、それ迄のはなしだった。けれど幼き日に彼女と交わした約束は今もこの胸に鮮明に絡み付いている。

(嘘、付いたら)

「針千本のます、か」

明日、俺は戦場に向かう。赤の国との戦争。常勝の将軍として数多の兵を率いて幾多の敵を討ちに出るのだ。輝ける勝利、不敗の将、幾つもの二つ名が俺を装飾する。戦に勝つ度に敵を殺す度に増えてゆく賛美にいつしか俺は飽きていた。違う、恐ろしくなったのだ。この侭勝ち続けて終えば、いざ敗北を味わった時にどうなるのだろう。麻痺する程に注がれた美酒が一瞬にして苦い辛酸へと変わる時、俺はどうするのだろう。素直にそれを受け入れる事が出来るだろうか。

勝ち戦の数が十を越えた頃、兵達は俺を憧憬の眼差しで見る様になった。勝ち戦の数が五十を越えた頃王候迄もが俺の事を神か何かの様に崇拝し始めた。そうして勝利の数が百を越えた頃、誰もが、敵さえもが俺の勝利を疑わなくなった。向かって来る筈の敵が端から勝利する事を諦めている。そんな士気の下がった軍を相手取るのは容易いことだった。味方は当然、俺の勝利を疑っていない。どんなに不利な状況であっても「勝つのだろう?」という無言の言で俺を圧倒した。きらきらと憧憬で見られるのは悪い気はしなかった。それだけ好かれているのだと嬉しくもあった。まるで神の様に俺を崇める様はいっそ滑稽でもあった。しかし、それも明日で終わる。正確には明日の戦で、だ。

俺は、俺達は明日の戦で敗北を喫するだろう。味方は誰一人俺の勝利を疑っていなかったが、冷静になって、そう、俺を一人の将として見れば、彼我の差は明らかだった。負ける事はもはや恐ろしくはない。寧ろ、やっと重圧から解放されるのだという、ほの暗い喜びさえあった。けれど、ただひとつ。桃色の髪をした幼馴染みの事が気がかりだった。国随一先読みの巫女として名高い彼女は、戦に負けた後どうなってしまうのだろうか。よもや殺されはしまい。しかし女であるとはいえ、彼女がこの国に貢献してきた事は覆し様のない事実。出来るならば、彼女の安寧を乞うてみようか。きけば赤の王は人格者であると言う。戦に程好いところで敗北を申し入れ、己の処遇を如何様にでも、と乞えばそのくらいの我儘は許されるだろう。彼等だって常勝の将は欲しいはずだ。自惚れでなく、己の名につけられた価値くらいは理解している。それを大々的に処刑にでもすれば赤の国は瞬く間に最強として名を馳せるだろう。

「さつきとの約束は、守れそうにねぇな」

国にいるはずの彼女の姿を瞼の裏に思い浮かべて、そっと目を閉じた。



(だいちゃん、約束ね。ずっと二人で一緒だよ!)








さよならの墓標