完璧な無垢







乱菊






青い空に浮かんだ雲がどんどん私を追い越して行く。河原の草と髪を攫う風に、春なんだな、って思った。瀞霊廷に来てから、私は灰かぶりの話を知った。不幸なお嬢様が魔法使いに助けられて王子様と幸せになるご都合主義な話。そんなありふれた物語の一つも知らない私を、話を教えた彼女達は哀れんでいたみたいだったけど。きっと彼女達の中の灰かぶりは無知な私なんかじゃなくて、何等かの悲劇を抱えた彼女達自身。名前も顔も覚えていない彼女達の事を考える内に何となく寂しい気持ちになった。ぷちり、と足元の草を千切る。掌に軽く載せただけの黄緑色は直ぐ風に持って行かれた。

(ギンはまるで魔法使い)

惨めったらしかった私に、ご飯と寝床をくれた。本当に、お話の中の魔法使いのよう。綺麗な着物も鮮やかな舞踏会も無かったけれど、ギンに出来ない事なんて無かった。私はそんなギンが大好きだった。だけど、ねえ。私は気が付いて仕舞った。魔法使いは決して王子様とイコールじゃない。役目を終えて終った魔法使いは何処へ行くの。

「ねえ、ギン」

助けてよ。ぽつりと呟いた言葉は直ぐに風に攫われて仕舞った。でも、何処へ行くかも知れない空気の流れに、少しだけ。その先にいるかもしれない銀色を思った。



(私はには未だ魔法使いが必要なのです)






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