翳した指先から







ギンと藍染





隊舎の縁側に座って僕は空を見上げていた。墨染めの様な夜にきらきらと星々が輝いている。だけれど僕にはそのどれもが酷くくすんで見えた。まるで薄い半透明の膜で被ったように朧げ。多分、星を見るには此処は明る過ぎるんだ。死後の世界の全てを司る場所だと云から、昼夜を問わず何時だって十二分な程灯が燈されていた。だから、眩しすぎて星が見えない。流魂街にいた頃はそんなこと無かった。夜空は何時だって虚無を孕んで黒く、星々は目眩がする程に明るかった。あそこでは、灯なんて使ったことも無かったからその分だけ星々と月が頼りだった。

「何を見てるんだい」

「何にも」

からり、と背後で障子の開かれる音がする。其所から出て来たのは藍染だった。けれど何等驚くに価しない。藍染の部屋の前なのだから。

「ああ、星を見ていたのか。今夜の空は綺麗だ、星が良く見える」

自然な動作で藍染が横に腰を降ろしたのが空気を介してわかった。僕は星を見上げた侭。藍染はこんなにもくすんだ空を綺麗だと言うのか。だけれどそれも仕方ないことだと思う。藍染は生まれ乍の貴族だと云うから、流魂街の空など知らないに違いなかった。

「僕は、嫌いです。こんな空、」

こんな汚い空。星々が霞めば霞む程、此処は流魂街とは、彼女と暮らした場所とは違うのだと言われているようで、酷く胸が軋んだ。自分の歩いて来た道程を、これでもかと云う程にまざまざと見せ付けられて、気を抜けば涙が零れて仕舞いそう。

「こんなにも、美しいのに」

上辺だけの残念さで溜息をついた藍染は僕の方へ腕を伸ばすと、乱暴に床へと僕を押し倒した。ぎ、と云う木の軋む音。無体を働かれ、強かに打ち付けた肩が痛かった。視界いっぱいに拡がるのは、冷たい鳶色。それを越えた先に見えているのはくすんだ夜空。視覚全てを憎悪と嫌悪で犯されて、酷く気持ちが悪かった。



(星を見ない様にと手を翳す)








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