遠退く予感




(あ、)

乱菊は視線の先で、軽薄に笑う銀髪の少年を見つけた。距離にして僅か数歩先。彼が身に纏っているのは半人前を表す院の制服では無く、黒い死覇装。自分は彼を追って此所に来て、漸く院で再度逢うことができたと言うのに。彼は、ギンはそんな己の思惑をいとも容易く摺り抜けてさっさとと卒業して終った。ギンに追い付けたと思ったのもたった一年。それすらも、彼は飛び級に飛び級を繰り返し揚句の果てには"特別"になっていた。曰く、ギンは天才なのだと言う。彼がその才にずば抜けていたのは乱菊誰よりも知っていた。けれど、他人が言うようにあんな機械染みた少年を乱菊は知らない。一緒に暮らしていた頃のギンは悲しい顔もすれば笑いもする、只の何処にでもいる少年だった。なのに、再会してからのギンはあの、仮面のような笑顔を張り付かせて正しく他人行儀に乱菊に接した。無視されている、と云う訳では無かったけれど。彼は"特別"に相応しく乱菊と会話することも無かった。目線を合わせることも無く、共に時間を過ごしたことも無い。

(ギンの馬鹿、)

己は別にそれでも良かった。ギンが"特別"で。自分との過去など忘れて仕舞いたいと言うなら、悲しいけれど仕方ないことだと思う。所詮、自分はあの日ギンに拾われた身だから。彼が幸せなら、と諦めも付いていた。

(なのに。なんで、)

そんな哀しそうな顔をしているの。どうして今にも泣いて仕舞いそうな顔をしているの。見ている此方が悲しくなってくる。本当は今直ぐにギンの所へ走って行って、ぎゅうと抱きしめてあげたい。だけど、ギンと自分との間の距離が邪魔をする。乱菊は持っていた教本を胸に抱え直すと、走ってギンのもとから離れた。



(これ以上は、泣いて終うの)







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