ちょうどひん

虚夜城と呼称される香港マフィアの本拠地のビルディング、その最上階に二人はいた。ボスの私室にとあつらえられた調度品はそのどれもが美しく、マフィアのボスの居室というその静謐さに耐えうるだけの品位を備えていた。その調度品の中で一等美しいと、ボスである藍染が直々に溺愛しているのがその愛人だ。遠出する際はどこへでも連れ歩くほどの耽溺のしよう。白痴のような白い髪が良い、病人のような白い頬が良い、すらりとしたその立ち姿が良い、骨ばった指の一つ一つが艶めかしく動くのが良い。唇をギンのつま先につけると舐め上げるようにゆっくりと口付けを落としていった。生暖かい舌先の感覚がギンの神経を這い上がり、ぶるりと全身が総毛立つ。
「ああ、美しい。ギン、君は神の作った最高傑作だ」
ギンは藍染が伸ばしてきたその腕を掴む。その手は丁度ギンの白銀の中国服の袷を寛げ、素肌に進入してきたところだった。藍染のもう片方の手はすでに太腿に触れ、緩やかに腹へと這ってきている。情欲を煽る様なその動きに身体がぶるり、と震えた。藍染の優しい顔が眼前に迫り唇に唇が触れる。甘い吐息がギンの鼻先にかかる。ああ、この人には敵わない。そう思って目を閉じたのを合図に、舌を差し入れられ、あっという間に自身のそれが絡みとられた。ここまで来て何を今更と、抵抗するのも馬鹿らしく、受け入れてやると、下肢をまさぐる動きが激しさを増した。つ、ふ、と吐息が漏れた。今度は胸を撫でていた指が胸の突起をつまみ、びりっとした痛みが脳天を刺す。だがこの痛みがすぐに快楽に変わることを、他でもないこの身体がよく知っていた。剥がされた己の衣服を掴んでいた手を解き、藍染の肩を掴む。上等のスーツに皺がよる。振り落とされぬよう、逃げてしまわぬよう、強くしがみついた。口内を陵辱するのにも飽いたのか、男はようやく唇を離し、そのまま首筋に降ろしていく。生温い感触が撫でる様に、思わず喉がごくり、と鳴った。喉が、背骨が反り返り、胸を藍染の方に突き出す格好となった。藍染は一向に愛撫の手を休めることをしない。次第に身体が火照っていくのが嫌でも分かる。ああ、熱い。下肢に集まる熱が少しずつ理性を侵食し、快楽に書き換えていく。つ、ふ、と堪え切れなかった嬌声が己の唇から漏れる待つのに、そう時間はかからなかった。はしたない格好だ、と理性が自らを戒めようとするが快楽に支配された脳はそれを聞き入れようとはしない。
藍染が足を持ち上げると、中国服が肌蹴て生白い、骨ばった脚が露わになる。肉の少ないその脚は女のものよりも細くみえた。暗闇にぼんやりと浮かんで見えるその足は、酷く美しいく、月下麗人がいると言うのなら、まさにこの人だと思えるほどだった。柔らかな銀髪が真っ白な絹繻子の上に広がり、天上の様相を呈していた。所有者である藍染はひどく満足した様だった。今まで何度もそうしてきたように、藍染が我が物顔でギンの内部を侵す。身体を裂かれる痛みが走るのも束の間で、慣れてしまえばどうということはないのは分かっている。それでも、痛みも快楽と同様、覆しようのない真実であった。藍染は、自らのそれを完全にギンの中に埋めてしまうと、ギンの細い首を持ち上げて、彼の方を向かせた。苦しげに呻いたギン目に、二人きりの時にしか見せないあの、冷徹な藍染の顔が映る。ギンはぼんやりとそれを見つめている。
痛みが少しずつ快楽に変わり、媚薬のように脳内に充満していく。もう待てぬ、とでも言いたいのか、ギン腰がひくりと動き、それによって、ほう、と熱い吐息がこぼれた。
「あいぜんさ」
「見なさい」
言いかけた名前は、脳髄を揺らす様な低い声に遮られる。全てを包む様な柔らかいテノールは、今はただ只管に冷たい色を放っていた。藍染は空いた手でギンの首の後ろを掴むと、抱き寄せるようにしてその身体を起こした。そのせいで更に深部まで藍染の軛が入りこみ、思わず身をよじった。背骨が溶けてしまうのではないかと思うほど、熱い。布団に背を預けるほうが余程楽だ。だが藍染がそれを許すはずもなく、更に身を起こし、互いに正面から抱き合う格好になる。藍染はもう一度、見なさい、と言いギンの頭の上に手を置くと無理やり下を向かせた。
ギンの視界に入ったのは、はしたなく屹立した自身の欲情の権化、そして深く食い込んだ藍染のもの。咥え込んでいるのは他でもない、ギンの体だった。そう認識した途端、例えようのない羞恥に襲われた。
「なんで、こないなこと…」
切れ切れになる吐息をかいくぐってなんとかそれだけを紡いだ。藍染は何も答えずにギンの腰に手を当て、揺さぶり始める。ギンは思わずその首にしがみついた。
僅かな振動で残り少ない理性のねじが飛んでしまいそうになる。残ったのは、僅かな恐怖心と、快楽を求める本能だけだ。
そして唇は、ただ意味のない音を漏らしながらお互いの情欲を煽るだけの道具に成り下がった。
突然、藍染が首筋に歯を立てる。
あまりの痛みに熱に浮かされた脳は現実に引き戻され、更にわけが分からなくなる。行為中に正気でいるのはギンにとっては辛いことだ。見たくない、と拒絶しようにも、痛みがこれは現実だと告げる。
快楽にだけ集中していれば楽なのに、どうやら今宵の藍染はそれさえ許してくれぬらしい。

「んあッ、ア、いた…いやや…」

引き離そうと藍染頭を掴むが、そのせいで隙を突かれ、再び布団に押し戻されてしまった。深く貫かれたままの秘所は悲鳴を上げるも、腰は藍染の動きに合わせてくねくねと揺れる。酷い屈辱だ、とその言葉を最後に理性は口をつぐんで、あとは快楽の海に沈んでしまった。
ギンはただされるがままに任せ、藍染の首にしがみつき、鳴くことしか出来ない。
視界に闇が降りていく。部屋を囲っている暗闇よりも、ずっと深く、そして静かなそれが目の前に散った。


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