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「また解体魔が出ました。これで3人目の犠牲者です。被害者の身元は全て不明……」
マイク越しの音声が大会議室に響く。場所は警視庁、日本の心臓とも言える東京都の治安を維持する要塞だ。「解体魔」と呼ばれる猟奇殺人犯が現れてからわずか三週間足らずで、被害者の数が三人に増えた。一週間に一人のペースである。捜査一課に属する刑事の一人、阿散井恋次はギリリ、と唇をかんだ。そう、三週間も立つのに未だに警察は手がかりの一つも掴めないでいるのである。阿散井は元来正義感の強い性質である。そのことが堪らなく歯がゆかった。会議室の前方に映し出されたスクリーンには、遺体の写真が並んでいる。三つ並んだそれは、そのどれもが四肢と首を切り落とされていた。特に一番目と三番目のものは損傷が酷く、あまりの光景に目を覆ってしまいたくなるほどだ。
一般の捜査員が座る机と離れて、こちらに向き合うようにして並べられた机にはお偉方が座っていた。「切断魔」とメディアが警察の無能を騒ぎ立てて以来、お上は早々に事件を解決しようと躍起になっているのだ。実際現場には多部署からの応援を含めて普段の倍近い人数が出張っていたし、捜査本部には有能で名高い藍染警視正の名前も連なっていた。
「三週間で三体か、記録的なペースだね。外国ならいざ知らず、現代日本においてここまでの猟奇性・ペースは類を見ない」
藍染警視正の声がマイクを通して会議室に響く。亜麻色の髪、ぶの厚い黒縁眼鏡、すらりとした長身、温和な笑顔、どこを取っても完璧な超人で庁内の女子たちの憧れの的だった。彼はキャリア組ながら一時は捜査一課にも属していたことがあり、その時から有能と名高い男だった。
「四肢は発見されておらず、胴体だけが見つかる…胴体だけじゃ生きられない、って言いたいんやろか」
愛染警視正の言に重ねて意見したのは市丸警視だ。100年に一人の天才の名を欲しい儘にした男で、何でも警察試験を満点で合格しだほどの頭脳を持つらしい。愛染警視正が捜査一課にいた時からの直属の部下だった。けれど、阿散井は市丸警視が常に浮かべているあの、なんとも言えない笑みが苦手だった。
「あるいは犯人は無力感があるのかも知れないね…四肢をぐと言うことは自由を奪うことを意味する…単純に身元の特定を不可能にして操作の撹乱を狙ったのかも知れないが…」
「その割にはDNAがたっぷり残ってはる…捜査の結果一致するDNAは無かった様やけど」
藍染警視正は市丸警視の言を受けて書類をパラパラと捲る。
「資料によると、被害者は解体中48時間も生きてたそうだね?」
愛染警視正の問い掛けに、検視官がはい、と返事をした。
「血止め、応急処置などが行われた形跡があり、被害者は三人とも意図的に生かされていたものであると推定されます」
「切断に性的興奮か何かを得ていたんやろか…となると、行方不明の手足は犯人の手元にあるんやろね」
「と、すると保存料が必要だな。誰か業者をリストにしてくれ。会議はここで一旦終了とする。他に発言したいものはいないかい?」
誰も手を上げないのを確認すると藍染警視正は市丸警視を伴って退出した。上役達が消えてしまうと途端に会議室は賑やかなものとなる。班長の檜佐木が阿散井を呼んだ。
「おーい、阿散井、お前は俺と保存料の購入者を片っ端から当たってくぞ」
「うぃっす!」
捜査会議の資料を片手に会議室を出て行く檜佐木に続いて阿散井も外へと飛び出した。

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