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水の中に身体を横たえ、漂わせ、揺らぐに任せたまま目を開ける。景色は白く濁り、光が筋になって突き刺さっているのが辛うじて判別できた。腕を動かすと、まとわりついている水が遅れて全体に揺れを伝播する。両足が左右に振られるほど波が立つと水面に起伏が生まれ、影が差した。
腕を止め、その波が起こす光と影の造形をしばし眺める。すると、突然ぬっと黒い影が視界に現れ、水に侵入した。空気が水の中で音を立て、堅い何かがうなじを掴む。ああ腕か、とひとり納得する束の間、その腕に抱えられて心地よく浮遊する水の中から引きずり出される。
空気に触れて、身体がひとりでに口を開けて酸素を欲した。
「なにをやっているんだ」
腕に上体を抱えられ、腹より下は水に浸かったまま、ギンは声の方向に視線を漂わせた。怒ったような表情の藍染が、しぶきを浴びて水を垂らしている。
情事の後の身体の火照りを冷まそうと、バスタブに水を張り、行水をしていたギンが水から上がって来なくなったので心配でもしたのだろうか。だとすれば、なんと丸くなったことか。
そう考え、ギンは独りニヤニヤと唇を歪めた。藍染は不愉快そうに眉をひそめる。ギンの意図を容易く汲む人間など滅多にいないが、そういった相手には、この突拍子もない笑みは不気味なだけであろう。ギンは濡れた肌が水滴を弾くのを確かめようと腕を持ち上げ、手を天井のライトに重ねて広げた。ポタポタと水が落ち、頬に落ちる。それから藍染を見やって、そちらに腕を伸ばす。首にしがみつくようにして身体を密着させ、藍染が諦めに満ちた吐息を漏らすよりも早く、頬に頬を寄せてため息をつく。
「もう少し、こうやってたかったんやけど」
「仕事だよ、ギン」
はぁい、と気の抜けた返事をした。藍染が仕事だと言うのなら、自身も従わなければならないのだろう。ばしゃり、と水をかき分け自らの足で立つと、藍染がバスタオルを放って寄越した。やはり今日の藍染は随分と優しいようだ。


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