アリアドネ/ギン


誰もが息を詰めて、反膜に包まれて天へと昇って行く藍染達を呆けた様に見送っていた。完全に黒い穴の中に消えて終う、と思われた瞬間。音を遥かに越えると本人が語っていた神の名を持つ斬魂刃が、天へと高みへと昇ろうとしていた死神を藍染を貫いた。時間にして、僅か一瞬。あ、と云う間もない程の速度で伸びた白刃はまるで串刺す様に藍染を射貫いていた。

「っ、」

じわ、と広がる鮮やかな血が隊長羽織りの白を染め上げる。確かに胸に突き刺さった刃に藍染は信じられない、と云う様な目で薄らと笑うギンを睨みつけた。

「ギン、何を」

「死せ、神殺槍」

するんだ、と云う藍染の言葉はギンの解号に掻き消された。感情の一切を伺わせないその冷たい声音に呼応して、斬魂刃が霊圧を纏う。す、と藍染の胸から刃が消えギンの手の内に収まるのと同時に刃の刺さっていた場所から、藍染の身体がぼろり、と崩れた。

「あああああ、」

藍染がその胸に開いた穴に、叫ぶ。有らん限りに喉を震わせ、獣染みた咆哮をあげる。まるで虚に為る過程の様なその侵食。ぼろり、ぼろり、と留まることを知らぬかの様に内から、外から剥がれ落ち抜け落ちて諾々と藍染を飲み込んで行く。ギンは神が零落するその様を常時は伏せている薄い青色の双眸を見開いて、ただ見つめていた。

「さようならや、藍染さん」

藍染が、痛みの為か、それとも信じ難いという思いの為か、意図せずに一歩を引く。そしてその侭反膜に守られた足場を踏み外し天へと、頂きへと到達する目前で文字通りに転落した。驚愕の表情は崩されぬ侭、反射的に伸ばされた右腕は何を掴もうとしたのか。然し乍、その腕はただ空を掴むのみで、実質何も得られない侭に握られた。胸部と言わず、脚部も残っている部分が少ない藍染の身体でまともに毒の侵食を受けていないのは首と、縋る様な右腕だけだった。藍染の鳶色の眼光が徐々に薄れて行く。


ギンも落ちて行く藍染を追って、自身の足場を蹴った。黒い死覇装と白い隊長羽織りが空気の抵抗によりはためく。反動をつけた事により一瞬で藍染へと追い付くと、その薄い唇をにい、と歪めた。

「返して貰いますよって、」

ぞくり、と背筋に寒気が走る様な笑みの筈なのに何故かその奥に安堵した様な、幼い子の様な表情がちらついている。もはや覆う可き身体を持たず意味を為していない藍染の死覇装の袷に、ギンはその白く骨張った手を突っ込んだ。何かを掴み、勢いよく引き出した手にあったのはきらり、と陽光を受けて輝く硝子で覆われた様な球体。

「    」

ギンは崩玉を愛おしむ様に、ぎゅ、と握り締めると遥か下の渇いた大地に叩き付けるようにもはや首だけと為った藍染の亡骸を蹴りつける。鳶色の首は法則に従いその速度を増すとごきゅり、と聞くに堪えない音を立てて強かに地面へと落ち、数度跳ねた。分解されて仕舞った為に、流血を伴わない生首が拉げた様はまるで精巧な人形の様だった。

とん、とギンがその痩躯を軽やかに大地へとつけた。ふわりと裾が揺れる。

「漸くや、長かったわ」

一歩、二歩魘れた様な口調で、然し足取りは確かに鳶色の首に近付くとギンは、その上を鞋を載せた。ぐちゃり、と頭蓋を踏み砕く。容赦無く拉かれた頭部は先程迄とは打って変わって、酷く現実味を帯びた生臭いものへと変化した。鳶色を中心に輪の様に紅を撒き散らして転がる首はギンの鞋の下でぴくりとも動きはしない。酷く醜い物見る様な、嫌悪感を顕わにした顔で吐き捨てるたギンを、我に返った護廷の面々が取り囲んだ。


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