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乱菊+日番谷




禿に連れられて乱菊の部屋に入って来た与力は、日番屋冬獅郎と名乗った。乱菊は自身から僅か一歩、と言うところに禿が置いていった座布団にすわる、目の前の男をじい、と見据える。勿論、まじまじと見ていること等相手には悟らせはしない。意思の強さを十分に窺える翡翠の瞳、ふわふわとした手触りの良さそうな白色の髪。女が放って置かないだろう綺麗な顔立ち。ただ、眉間に寄せられた皴が彼の雰囲気を堅苦しいものへと変えていた。

「それで、私に何の御用かしら」

空いた片腕で流れる様な金糸を気怠げに掻き上げると乱菊は煙管を盆に打ち付ける。かん、と金属と金属がぶつかりあった鈍い音がした。その仕種に、ぴくり、と反応しつつも日番谷は腕組みをしたまま不機嫌そうに口を開いた。

「白銀大夫、を知っているな」

彼の口から漏れたのは、乱菊が予想だにしていなかった名前。何と無く、今日来るかしら、と乱菊が思っていた男。代わり来たのは日番谷だったが。

「ええ、彼はこの街の顔の一人だもの」

知らない筈が無い。この街について少しでも知っている人ならば誰でも知っている。ましてや、この街に住む遊女が知らぬ訳が無い。何が言いたいのか、と軽く日番谷を睨んだ乱菊に日番谷は慌てて違う、と付け加えた。

「そうでは無く、奴個人の話だ」

「白銀自身、の?」

彼自身の、と言うことは白銀大夫と云う地位では無くギンに付いての話だろうか。ならば彼の見世の者に聞けば良い話だろうに。

「そうだ、お前は白銀と親しいと聞いた」

親しい、と言う言葉を聞いて乱菊はああ、と頷く。ギンは何時でも笑顔で、誰にでも気安く話かけるが、親しいと言える程の付き合いが在る者は少ない。その数少ない者のなかの第一位に乱菊はいた。乱菊とギンが親しいのは、知る人ぞ知る、とはいかないがあえて人に言うことでも無いと、半ば秘密の関係の様に為って仕舞っていた。しかし、それでも噂は漏れるもので日番谷もそれを何処からか聞いて、此処に来たのだろう。

「何故、彼のことを」

余程の事ね、と思い乍慎重に問うた乱菊に、日番屋はしばしの間、考え込むようにして、それから仕方ないと言うように口を開いた。

「阿片、だ」




(涅槃へ誘う花)






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