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結局夜が明けるまで居座った男を見世の入口まで見送ったギンは、禿に部屋の後片付けをさせ乍ら呟いた。
「乱菊に、逢いたいなぁ」
小さなその声音に自分が呼ばれたのかと動きを止めて振り返った禿にギンは何でもない、と手を振った。禿は小さく小首を傾げるとギンの為に新たな茵を広げた。そして汚れて仕舞った昨夜の布団を小さな手に抱えると部屋を出ていく。
「おおきに、」
ギンはその背中を見送り、両手に抱えた荷物では襖を閉めれ無いだろうと閉めてやる。禿はぺこり、と一礼するとその侭廊下の陰に消えて仕舞った。ギンに付いて暫く立つ禿は、既にギンの生活の様式を覚えた様なので暫くはギンの部屋には寄り付かないだろう。客を相手にした後は身を清めて、禿に部屋を綺麗にさせると再度床に付き起きるのは巳の刻を大分過ぎた頃。そしてそれから昼餉を食べて夜迄気ままに過ごす。時々は禿に芸事を教えたり、乱菊の所へ逢いに行ったりしていた。
ギンはぽすん、と白い茵に身体を預けると巳の刻に禿が起こしにくるまで寝てようと瞼を閉じた。
(眠りから覚めたら君に逢いに行く)
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