なまえのないかれら

彼らはその関係に名前をつける事が出来なかった、或いは明確にそれと明かすことを恐れていた。正体のわからないものだからこそ彼らはその安堵に浸っていられたのだ。靄がかった朝が素晴らしい未知を連れてくるように。けれどどうにかこうにか呼称を付けなければ如何にも具合が悪いから、と彼らは彼らの関係の事をこう呼んでいた。愛だ、と。初めはお互いに鼻白んで誰だどっちだこんな陳腐な名前を付けたのは、そこらのスラムで二束三文で叩き売りされてる様なチンケなネームプレートを俺たちの間に垂れ下がる糸に付けたのは。暫し喧嘩をしていた。燃え上がった熱に浮かされる様にして彼等は何時もの様に身体を重ね、冷たいシーツと高い体温の余韻に浸りながら、これまたどちらからともなくつぶやいた。
「セックスしてるんだから、もうその呼称でいいんじゃねぇの?」
「改めて考え直すのも面倒だ」
「ちげぇねえや」
片方が咥えた葉巻にもう片方が流れる様なしぐさで火を着ける。葉巻を咥えた男は片方しか無い手で男の頭を撫でてやった。結局彼等はお互いにその関係を愛と呼称することに落ち着いたのだった。

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