秘密(DC/モブジン+ピンガ


鍛え抜かれた体躯が仰け反り、豊かな銀髪が天使の羽の様に宙に広がった。踊る様に腰をくねらせ、押し殺した嬌声が男の薄い唇の隙間から漏れる。真っ白なシーツ、キングサイズのベット、天井から吊り下がった豪奢なライト、全てが舞台装置の様に整えられたそれをピンガは腕組みをして睨め付けていた。老いた男の上で、艶やかに吐息を漏らす男ーージン。彼のことをピンガ自身は好いてはいなかったし、むしろ目の上のたんこぶの様に思い、いつか排斥してやろうとさえ目論んでいた。しかし、目の前の光景は一体何だと言うのだろう。ピンガは受け入れ難いと言う様に小さく頭を振り、できるだけ視線をベッドから逸そうと試みたが、どうしてもあの艶やかな銀髪が目に入ってしまう。つい目で追ってしまう。
ジンの下でその絶景を目の当たりにしている老人は経済界のとある重鎮だ。組織はそう言う「利用価値のある」人間に顔を繋いでおく為に賄賂を送ったり、別の場所で便宜を図ったりしていると聞いていた。ピンガはどちらかと言えば潜入、現場での仕事が多いので詳しいことは知らなかったが。その中には勿論、見目麗しい女性をアテンドする様な事は含まれているだろうとは思っていたが、まさか男で、しかもコードネームまで与えられている組織のメンバーがその身体を差し出しているとは思いもよらなかった。そもそもジンは女性顔負けの美しいロングヘアを持ってはいるが、上背のあるがっしりと筋肉のついた男であるし、何よりあの睨みつけられただけで息の止まりそうな鋭い目つきがジンと言う危険な男を形作っていた。とてもじゃないが「抱きたい」などとは思えなかった。ジン本人も男にいい様に扱われるのは屈辱なのではないのだろうか。それとも「あの方」への忠誠心がそれを押さえつけて、男に組み敷かれると言う辛酸を上回っているのか。ピンガは護衛の為にこの部屋に派遣され、老人とギンを襲撃から守るのが役目だったが、普段はこの仕事はウォッカがしているらしい。ウォッカはともすれば組織に、と言うよりはジンそのものに忠誠心を抱いているかの様に見える。兄貴分がなす術もなく老人に抱かれている様をウォッカはどの様な気持ちで毎回見つめているのだろうか。怒りに燃えて?哀れみを感じて?そう、そこまで思考を巡らせれば、昇進の邪魔になるジンとその一派を下に見れるような気がして溜飲が下がった。
一突きされる毎にその身体は跳ね上がり、空気を淫らなものにしていく。老人とジンの動きが次第に速くなっていき、絶頂が近いのだと伺わせた。ジンのしっかりとした喉仏のある首が逸らされて、「あぁぁ、」と嬌声を漏らす。老人はジンの腰を掴むと逃がさないとでも言う様に激しく突き上げて、そして果てた。ジンが老人の上から避けようと、自らを貫いていた萎えた茎を秘所から抜くと白濁とした液体が垂れて白い太腿を流れて落ちた。ピンガはその様を見て無意識に喉をゴクリと鳴らした。その瞬間ジンが此方を見ていた様な気がして思わず睨み返してしまった。ジンは敵愾心を燃やすピンガに、唇の端を歪めて笑みと一瞥をくれると、ベッドから身体一つで立ち上がり続きの部屋にある浴室に消えて行った。



ジンが老人に組み敷かれていたのは都内でも指折りの高級ホテルのスイートで、事が終わった後シャワーを済ませたジンは老人に一瞥もくれる事なく部屋を出て行った。ピンガは一瞬どちらに着くべきか迷ったが、別に老人といても楽しい事はないし、そもそも二人の情事を護衛すると言う役割だった筈なので、お役御免とばかりにピンガもジンに続いて部屋を出た。先に廊下に出ていたジンを追いかけ、同じエレベーターに乗る。ジンはじろり、とこちらをいつもの調子で睨んだだけで何も話しかけてはこなかった。エレベーターは地下駐車場に停まり、2人は無言のままそこに降りた。カツカツとコンクリートの壁に2つの足音がこだまする。ポルシェ356A、ジンの愛車だ。黒光りする、ともすれば可愛いと思える丸い車体。ジンは当然の様にピンガにキーを投げて寄越すと自分はするりと助手席に収まってしまった。今日のジンはピンガを徹底的にウォッカの様に小間使いにするつもりの様だ。一つ舌打ちをしてからピンガは運転席の扉を開いた。
そのまま車を発進させて、ジンの指示通りアジトとして使っている都内のマンションの一つへ向かう。
「いつもあんなことしてんのか、お前」
何となく咎める様に口調になってしまったと自嘲しながらピンガは呟いた。ジンは今ではどの車からも姿を消した、シガーソケットで煙草に火をつけるとふぅ、と吐き出した。
「知ってどうする」
流れゆく窓の外の風景を見つめる横顔からは表情は窺えない。等間隔にこちらを照らすオレンジがかった街灯がジンの流れるような銀髪を金色に見せていた。
「別に、てめぇの弱みを一つ握ったと思っただけだ。が、言いふらしてボスに睨まれたくはねぇな」
本心だった。ジンがその身体で現在の地位を確立したと言い立てれば、組織の中でのジンの立場を揺るがすことに繋がるだろうという確信はある。が、今日の任務は自身の直属の上司にあたるRAMからではなくボスからの指名だった。幾ら気に食わない奴が相手だったとしても、ボスからの命令を言い触らすのはまずい。
「珍しく頭がよく回ってるじゃねぇか」
吸い終わったタバコを窓から外に投げ捨てると、いつもの嘲笑を唇に乗せてジンは笑った。


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