さくさく(さっちゃんと新八

しなやかに美しく、セックスを遊戯する。適当に声とシナを作っておけば男はみんな騙される。誘って。誘われて。吸って。吸われて。いれて。だす。それだけのお遊戯だ。仲良くおててを繋いで。天井にぶら下がったシャンデリアを見上げながらふとそんなことを思った。
「ああ、本当に綺麗だ」
熱に浮かされた様に其ればかり繰り返す男の耳を食む。舌を使って柔らかく、くちゅくちゅと音を立てて耳腔を犯せば、男はみっともなく喘ぎ声をあげた。ほら、主導権を握るのなんて簡単だ。房中術を修めた忍びにとって、セックスはただの手段の一つでしかない。それも飛び切り有効な手段の一つ。あんあん、声をあげて見せれば男はみんな喜ぶものだ。


「銀っさあああああん!」
紫髪をした女が突然、天井裏から降って来た。布団の上に仰向けに転がっていたします俺の腹を目掛けて。寝返り一つでそれをよけると勢いよく落ちてきた彼女の頭に向かって目覚まし時計を投げつけた。
「うるせえぇぇぇぇ!!!何時だと思ってやがんだこのストーカー女ぁぁぁ!」
「寝坊助な銀さんの為の、さっちゃんのモーニングコールだゾ」
「帰れ!」
目覚まし時計ごと吹っ飛んでいった女は何でもなかったかのように相変わらずのラブコールを飛ばしてくる。さすが忍者と言うべきか一瞬のうちに接近してきてはむちゅーと唇を近づけてくる。
「おはよーのチューがまだだよ、銀さん」
全力でその顔を遠ざけようと攻防していると襖ががらりと開く。新八が顔をのぞかせた。
「おはようございます銀さん。あ、今日はさっちゃんさんも来られてたんですね。じゃあ朝ごはんは四人前ですね」
「待ってェェ!!!こいつを数に入れんな新八ぃぃ!」
今度は腰にまとわりついてくる女を引きずりながら何とか寝室を出ると、新八は既に歌を歌いながら食事の準備をしていた。寺門通だかなんだか言う歌手の曲を熱唱する彼にはもはや此方からの声は届かないだろう。俺はため息を一つつくと、女を腰から引き離し足蹴にして部屋の隅へ転がした。
「ああっ!銀さんの愛の鞭ね!これが…!!」
とか何とか悶えながら転がって行った女はリビングの角の机に頭を強かに打ち付けて漸く静かになった。


「おれ、パチンコ行ってくるからあとはよろしくー」
そう言い残して出て行った銀さんが残したのはホテルでの浮気調査の仕事。都内有数のラグジュアリーで夫が浮気してるから証拠写真を撮ってきてほしいとのご依頼だ。色々問題を起こしそうだから神楽ちゃんは置いてきた。



慌てて逃げ込んだ先もやはり豪奢な部屋だった。廊下よりもさらに柔らかな赤の絨毯。高級そうな調度品、スイートルームの一室だろうことは想像に容易い。
「だれ」
艶のある、けれど鋭い女の声がして心臓が跳ね上がった。恐る恐るふりむくと、絶世の美女が目に飛び込んできた。濡れたあやめ色の髪に、薄く透けたシルクのランジェリー。色付いた唇は毒の様に赤い。ごくり、と喉がなった。どんな男の視線だってたちどころに掻っ攫って行ってしまう。白く嫋やかな肌の露出が目に毒だ。慣れたと思っていたけれどやはりこの人も、慣れてしまうには過ぎた美形だ。タオルでガシガシと頭をふく動作さえ気怠げな色気が漂っている。伏し目がちになった睫毛から雫がぽたり、と垂れた。
「銀さんとこのガキンチョじゃない」
「さささささ、さっちゃんさん!?」
どれくらいの間、その沈黙は続いたのだろうか。いつもと同じ、(銀さん以外には)つっけんどっけんな声音で僕は我に返った。す、と一歩。たわわなとしか形容しようがない胸が寄ってくる。慌てて視線をあげれば、さらに色気のある顔を拝む羽目になった。きっと僕の顔はみっともなく真っ赤に染まっているのだろう。けれどさっちゃんさんはそんな事は意に介していない様だった。相変わらず銀さん以外には興味がない人だ。
「こんなところで何をしているのかしら」
「万屋の仕事でこのホテルに来てたんですけど、見つかりそうになってそれでこの部屋に…偶々鍵が開いていて…あの…」
しどろもどろになって言い訳をする。何から話したら良いのかわからない。それでもさっちゃんさんは何かを察してくれたらしく、はん、と此方を鼻で笑った。あ、いつものさっちゃんさんだ。何故か安心してしまう。
「全く銀さんがいないとだめね」
相変わらず銀さん以外には興味のない人だ。と、そのとき続き部屋の奥から声がした。
「おーい」
野太い男の声。瞬間さっちゃんさんの顔が変わる。銀さんもよくする大人の顔だ。
「隠れなさい。クローゼットに、はやく」
「え」
「黙って」
白魚の様な掌が僕の口を抑え、クローゼットの方に促した。僕がクローゼットに隠れたのとほぼ同時に続きの部屋の奥から人が現れた。微かに開いたクローゼットの隙間から僕はそれを垣間見る。
「誰かいたのか?」
バスローブを羽織った、恰幅の良い初老の男がさっちゃんさんの腰をだく。細い腰が折れてしまいそうだ。
「いいえ?」
こてん、と小首をかしげたさっちゃんさんの指が男の太い首筋に絡んでいく。
「もう一回、ベットへ行きましょう」
シナをつくり体を絡みつかせる様にして、男に阿る。男の顔がでろり、と蕩けた。
「しょうがねぇなぁ」
さっちゃんさんの視線がクローゼットの扉越しに此方をみていた。そして目線だけでドアを指し示す。逃げろと言うことだ。さっちゃんさんが男に腰を抱かれ続き部屋の奥へと消えて行ったのを確認すると僕はそっとクローゼットを開いた。そして一目散に逃げ出した。








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