エクソシスト峰と魔王みん

エクソシスト峰と悪魔みん


ぼやける視界に無理矢理焦点を合わせて、緩やかに現実から解離して行く俺の瞳が最後に写したのは、燃え盛る炎の赤だった。



/干からびた土の様なぼろぼろの口内、腹の奥が捻れているかのような吐き気。重たい目蓋を無理矢理に開けば、真白な天井が目に入った。眩しくて、一、二度瞬きをする。視線だけをぐるり、と巡らせば、真白なシーツに、真白な天蓋。酷く綺麗な場所だけれど勿論天国なんかじゃない。天国なんかあるはずもない。(俺は、死んだ、と思ったのに)(あの、燃える炎の悪魔に、刀を脚を腕を折られ、無様に殺されたと)けれど、死ぬはずの肉体は確かな感覚でもって生を主張している。漸く解放されると、安堵さえした自我は真白な世界に張り付いたまま。(ああ、くそ)四肢に軽く力を入れたけれど、指先一つ動かない。

「起きたか、」

抑揚を欠いた低い声。狼狽えて、視線を声の方、左へと動かせば其処にはあの、赤い悪魔がいた。どうせ逃げられやしないのだから、やけくそに笑ってやろうと口を開く。しかし、出てきたのは黄色をした、胃液混じりの嘔吐物だった。体を動かす事が出来ないから、吐いたものは自然喉に溜まって、そして、噎せる。苦しくて、息が出来ない。げほげほ、という俺の喘ぎに混じって男の笑う声が耳に届く。ああ、もうだめだ、と意識が黒に沈みそうな、その瞬間男は此方に手を差し伸べた。ゆらゆらと曖昧の海を漂う俺をどうにか引き上げて、呼吸を確保した男はその指で未だ唾液とも胃液ともつかぬ滑る水分に濡れる頬を撫でる。指先は更に喉を伝い、鎖骨に触れた。その動きは酷く緩やかで優しいものであったけど、言い様の無い嫌悪感がこの身を襲う。

「なんで生きてるのか、知りたいか?」

詰問する口調ではないのに、威圧感を覚えるのは男が絶対的な力を持っているから。そういう、ところが悪魔なんだと思わずにはいられない。

「殺された、と思っただろ?」

応、と答える代わりに俺は目蓋を閉ざした。男が、はあ、と溜め息をつく。けれどどこか愉悦を含んだそれ。

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