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二日目


朝八時すぎにレストランで朝食をとった火神はその後ぶらぶらと船内を見回って部屋へと戻った。十二時を回って、午後1時過ぎ。そろそろルームキーパーが来る時間だ。ビー、と部屋のブザーがなる。 ドアを開くと案の定そこにいたのは、スタッフだった。一礼して入ってきたスタッフは、様々なサニタリー類を乗せたワゴンを部屋に入れ終えるとドアを閉じる。するとスタッフは、疲れた、とでも言う様に横柄にソファに腰をおろした。

「御疲れ様っす、日向さん」
「おー御疲れ、火神」

日向は火神の上司、チーム誠凛のボスだ。今回は火神のサポートでスタッフとしてアドラー号に乗船している。日向が顎でワゴンを示す。火神が指示の侭にワゴンを探ると、シーツとシーツの狭間から茶封筒がでできた。封を切り中身を見れば、たくさんの書類。

「昨晩のお前の話から調べた奴等の個人情報だ」
「すごいっすね…」
「当たり前だ、ダァホ。うちの伊月なめんなよ」

表紙を一枚捲れば、上院議員エドワードについてこと細かに記されていた。彼の公式ホームページに乗っている情報から、お気に入りの非合法売春宿の名前まで。妻ディアナの方も大概だ、お気に入りの若いツバメが三人もいる。十分をかけて十二人のプロフィールを読み終えた火神は愕然とした。

「……嘘だろ」
「嘘じゃない、火神。氷室辰也、紫原敦、この二人が陽泉の商人だ」

火神はファイルに再び目をおとす。[氷室辰也。ー州出身、ーハイスクール、ー大学を出た後、陽泉に所属。二度の逮捕歴あり]仲間の調査を疑ってはいけない、これは捜査上の鉄則だが、しかし火神は信じたくは無かった。

「氷室はお前と同郷だと聞いたが、これは事実だ火神。氷室辰也、彼に何があったかは知らんが結果氷室は裏社会に身を置いている。辛いのはわかるが、任務に私情を挟むなよ、この任務にはお前が必要なんだ」

厳しくいい放つ日向に、火神は戸惑いながらも頷く。そうだ、これは任務だ。私情を挟んで台無しにするなど最もあってはいけない事だ。火神は自分の迷いを払拭する様に、冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを一口啜った。氷室と同室の紫原のプロフィールに目を通す。紫原のプロフィールには氷室やエドワード達と違って殆ど記入が無かった。

「紫原敦、な。伊月が調べても出てこなかったって事は、恐らく政府のデータベースにものってない、完全に裏社会の人間だ」
「けど、タツ…氷室と同室って事は陽泉の人間っすよね」
「そうだな、だが奴の事は一旦置いておこう、陽泉の人間には違いないんだ。ー取引相手の可能性が高いのはこいつだな、麻薬王青峰輝」

日向が示したファイルには、隠し撮りだろう写真が数枚添付されていた。そのどれにもチャイナドレスに身を包んだ青峰が写っている。

「チャイニーズマフィア桐皇のボス、っすか」
「桐皇は青峰の代になってから勢力を伸ばした派閥だ。桐皇の主なシノギはドラッグ。奴のお蔭で帝光には依然よりドラッグが蔓延してやがる。同室のこいつは今吉翔一、桐皇の幹部の一人で青峰の腹心とも言える男だ」
「けど、桐皇の主なシノギはドラッグなんスよね。正直陽泉と取引してまで[モン・シェリー]を手に入れる必要はないんじゃ…」
[モン・シェリー]というのは陽泉商会が取引しようとしている、新時代の兵器だ。詳しい事はわかっていないが、それ一つで小国の国家予算する代物。

「その辺は今伊月に調べて貰っている。まあ、マフィアの考える事なんてろくでも無さすぎて、想像もつかんがな。次はこいつだな、黄瀬涼子」

黄瀬涼子のプロフィールは細かに書かれていた。出身州から高校まで。大学には行っていないのだろう、最終学歴は高校だった。プロフィールを追う限り彼女はまあ、全うな世界に近い方の人間だった様だ。

「高校卒業後は売春婦からのマフィア海常のボスの愛人か」
「付き人の笠松もまあ、典型的な裏社会の人生っすね。高校を暴力沙汰で中退後、刑務所入りを頻繁に繰り返し、その中で海常に所属。今回の旅は急にこれなくなったボスに替わって、黄瀬のボディーガードってトコみたいっすね」
「まあ、こいつらには大事な取引するような権限はないだろうな…一応白に近いな」

二人分のファイルを閉じる。机の隅に追いやられた黄瀬と笠松のファイルに替わって日向は新しいファイルを手に取った。

「赤司征十郎、帝光に拠点を持つカジノ王か。こいつもかなり怪しいな、元々がカジノなんてマフィアとつるんでないトコなんて、存在しねえからな」
「陽泉と取引しても不思議はない…?」
「まあ、あり得るだろうな。同室は赤司テツナ、妹か」
「似てないっすね」
「腹違いらしいぞ、ほら」

写真を見て火神がいえば、日向は細かに書かれた文字列の一文を指差した。そこには赤司テツナの母が赤司家の妾であったと記されている。コンピューターでここまでわかるのかと火神は心中で伊月に尊敬の念を送った。

「赤司は達一応黒候補っすね。次はこいつらか」

火神は次のファイルを開く。題字には緑間と書かれていた。医学部で有名な大学を卒業して、病院に数年勤務。その後、逮捕されていた。

「緑間真太郎、闇医者だな。法外な値段は吹っ掛けるが腕は確からしいぞ。まあ腕がヤバかったら裏社会では生きていけないがな。下手な治療をした時点でマフィアに殺されてる」
「同室の高尾和成は、贋作師。高校中退後数回の逮捕歴があるっすね」
「闇医者に贋作師か…別件では逮捕してやりたいが、陽泉と取引する様には見えねぇな」
「となると、まず見張るべきは青峰、赤司っすね」
「そうだな。相田には青峰、降旗には赤司を監視する様言っておく」

相田と降旗は誠凛の一員で、今回はスタッフとしてアドラー号に潜り込んでいる。ロイヤルスイートの専属スタッフとして潜り込んでいるのは日向を含めて相田、降旗の三人だから、その内二人を投入すること、つまり赤司、青峰にターゲットを絞ることに決めたのだろう。

「俺は氷室と紫原を監視しつつ、お前と連絡をとる係だ。お前は全員とそれとなく接触しつつ、随時情報を伊月に送れ」

それだけ言うと日向はソファから立ち上がり、ワゴンを押して部屋から出て行った。一人残された部屋で火神は何処にいこうかと考える。時計を見れば午後二時思えば昼食をとっていなかった。何か食べ様と、火神は部屋を出る事にした。


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