青峰と黄瀬と赤司 パロ

男娼青峰くんと赤司くんと黄瀬くんのはなし



他人の家というものは酷く居心地が悪い。正確には親戚にあたるのだから、赤の他人とは言い切れないが、交流もない人達を身内とは思えなかった。両親を先月事故で喪い、他に頼るべき親類もいなかった俺は、唯一血縁であった赤司の家にお世話になる事になった。俺1人でも大丈夫なのだが周りの大人ー先生や友人の母ーが許さなかった。 そんな理由で今日からこのとてつもない大きさの 家で過ごすわけなのだが、正直言って迷いそうだ。自分の家は普通よりも、裕福だと思ってはいたが、この家は純和風でとにかく横に広い。

俺のためにあてがわれた和室はシンプルだった。必要な家具は全て置いてあったが必要以上に部屋が広いから狭苦しさを感じない。以前の家にあった俺の荷物は段ボールに収まって既に部屋に運び込まれていた。鞄を隅におろし、窓の外を眺めれば綺麗に手入れされた庭が見える。広い池には、立派な鯉が何匹も泳いでいた。

「涼太君、どうかね」
「ありがとうございます、とても気に入りました」

俺に問うたのは、この家の主人、一郎さん。母の父の姉の…その先は忘れてしまったが、とにかく俺の遠い親戚と言うことだった。歳は50代でとても人当たりがいい。地元の代議士だと聞いて尊大だろうと勝手なイメージを抱いていたが、彼は雰囲気が柔らかく話しやすかった。

「それは良かった、これからは涼太君は家族も同然だ。遠慮はしないでくれ」
「はい」

早速だけれど、家の中を案内して欲しいと告げると一郎さんは笑顔で承諾をしてくれた。けれど一郎さんも忙しい様で案内のために、使用人を呼んでくれた。一郎さんに呼ばれて部屋に来た使用人をみて、まるでドラマの様だとおもった。

屋敷を案内されている間は、道や場所を覚えるのに必死だった。そんな俺をみて使用人ー降旗は心配しなくても、大丈夫だと笑った。迷ったときは使用人に訪ねてください。その言葉を聞いて俺は改めて非日常を感じたのだった。

一通り案内してもらいこれで全部かと俺が安堵の溜息をもらしたとき降旗は、

「ああ、そうだ」

と此方を振り返った。

「涼太様に守って貰いたいことが、一つあるんです。ほら、あそこに、離れが見えるでしょう」

降旗の伸ばされた腕の先を追えば、庭の向こう母屋からは直接に繋がらず、完全に孤立した場所に建物があった。母屋と比べるとだいぶ小さい。

「彼処にだけは、近づかないでくださいね」
「はあ、」

俺が不思議そうにしていると、降旗は焦った様に喋り始めた。

「ああ、ええっと、何て言ったらいいのかな…あそこは征十郎様のお部屋でもあるんだ、だから、その、勝手に近づいたら、いけないっていうか、」

征十郎さんとは一郎さんの一人息子、このお屋敷のお坊ちゃんだ。降旗の態度は素直に感想を述べれば、とても怪しいとしか言いようがなかった。 あの離れに何かしらの秘密があるのか、それとも征十郎さんが恐ろしいのか。そのどちらもだと思ったが、何となく降旗は征十郎さんの方を怖れているような気もした。しかし、此処を追い出されてはいくあてもないし、早々にトラブルというのもごめんだ。近づいたりしない、と明確に意思表示をすれば降旗は胸を撫で下ろした。何はともあれ、こんな調子で俺の新生活はスタートしたのだ。



他人の家といっても何日も暮らしていれば、多少は慣れてくるもの。だいぶ家の構造も覚えたし対人関係もいい感じになってきた。使用人も優しくしてくれるしこれといった不自由などない。唯、この家の息子、征十郎さんにだけは擦れ違いが続き未だ顔を会わせたことは無かった。

夜は正直することがなかった。課題は端からする気はないし、読書にも興味はない。テレビも、モデルの仕事を暫く休んでいるからか、最近は見る気も起きなかった。ただ黙って外を眺めている事が多い。この屋敷の庭は広いから退屈をすることは無かったが。深い溜息を一つつけば、廊下から名を呼ばれた気がした。慌ててふすまを開けば、そこに降旗がいた。

「どうかしたんスか」

ほとほと困り果てた顔をする彼から話を聞けば、征十郎さんを探しているとの事だった。母屋中を探しても見付からないので、もしかしたら離れにいるのかも知れない、と言う。

「すみませんが、離れを探してみてはくれませんか」
「俺が、ッスか…?」

降旗はとても焦っている様子だった。多分、今すぐにでも征十郎さんを探した方がいいのだろうけれど、俺も離れには近づくなと他でもない降旗に言われている。他にだれかいないのだろうか。

「今夜は大切なお客さまが来られるというのに、何処にいかれたのか」

深い溜め息を漏らす彼を、なんとなく放っておけない気がした。

「じゃあ、俺がみてくるッス」

少し覗くだけならば、大丈夫だろうと考えたし、密かに気になっていた離れを見る良い機会だ、と悪い事を思った自分の本音を正当化しようとす る。俺が調べに行かなければと降旗にもお客にも迷惑がかかる。そう言い聞かせて、俺は離れに向かった。

入り口の前に俺は立ち尽くしていた。一度心を決めたけれど、いざ前にするとどうしようかと悩んでしまう。一応扉を叩いて征十郎さんを呼んでみたけれど一向に返事は返ってこない。

「征十郎さん!!」

もう一度、できるだけ大きな声で呼んでみた。けれど征十郎さんは来ず、人の気配もしない。これは中を覗くしかないな。そう思って扉に手をかけたとき、中から床を踏む音がした。慌てて扉から手をはなす。がらり、と引かれた扉の向こうには浴衣をだらしなく着た青年がいた。群青の短髪に、褐色の肌。歪められた眼は鋭く、その均整のとれた肉体と相俟って、美しい獣の様だった。彼の唇がゆっくりと開き俺を見つめながら言葉を発する。

「だれだ?」

低く気だるげな声。一瞬、心臓が止まってしまった様な気がした。

「あの、征十郎さんですか?」

彼の質問を無視して逆に俺が問いかけてしまった。彼は一瞬気分を害した様だったが、一拍おいて「征十郎?」と首をかしげた。どうやら、彼は征十郎さんでは無かったらしい。

「あいつなら、此処にはいねぇけど。で、征十郎がどうかしたか」

「えっと、なんかお客様が来るみたいなんスけど、征十郎さん、母屋の何処探してもいないんス。それで此処かと思って…」

「あいつなら、今日は来てない」

言いながら体をきちんと此方に向けた彼の姿を見て、俺は戸惑った。どうしてちゃんと浴衣をきていない、申し訳程度に羽織っただけで、歩くたびに足が見えるし、胸元も大きく開いている。酷く大儀そうに彼は此方に一歩近づいた。俺は190ちかい長身だったが、彼は俺よりも数センチばかり高いようだった。少し屈むようにして、彼は俺を覗き込む。

「名前は、」
「黄瀬、涼太ッス、」

彼は僕の名前を思い出すように斜め上を見ている。さ迷う視線に、彼とは初対面なのだから思い出すわけがないというのに。

「そう…お前が、黄瀬涼太…」

彼は唇の端をつりあげてその精悍な顔に笑みを浮かべる。

「随分と綺麗な顔、してんだな」

言われた言葉に少し気落ちする。彼は黄瀬涼太の顔を知らなかったらしい。万人が知るほどの有名人だとは思っていないけれど、雑誌の表紙を飾れる程のモデルだとは自負している。少し悔しかった。

「はあ、まあ」

思わす、曖昧な返事をしてしまう。此方には征十郎さんも来てないというし、早くこの場を去るべきだろう。失礼しましたと一言告げ様とした俺の言葉は遮られてしまった。

「何をしているんだい、大輝」

背後からの声に振り向けば、俺よりも幾ばくか背の低い、燃える様な赤毛の青年がそこにいた。

「征十郎、なんかコイツ、お前を探してたみてぇだけど」

彼ー大輝の答えに、赤毛の青年が征十郎さんだと言うことを知る。へえ、と此方に顔を向けた征十郎さんと視線がかち合う。征十郎さんの瞳は赤と黄の、所謂オッドアイというやつだった。

「それは済まなかったね、涼太、少しばかり外出していた。今から母屋に戻るよ」

にっこりと、効果音が付き添うな程に完璧な笑みだったのに、征十郎さんの言葉は背筋が凍る程に冷めたものだった。ああ、こんな事ならば要らぬ好奇心など出すべきでは無かった。俺はそう思ったが、その事を本当に後悔するのはまだ先のことだった。


[ 33/70 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]



×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -